Wednesday, August 27, 2025

環境 青き海を取り戻す戦い ― 水質総量規制強化の軌跡 1999年

環境 青き海を取り戻す戦い ― 水質総量規制強化の軌跡 1999年

1990年代の日本において、東京湾や伊勢湾、瀬戸内海などの内湾は深刻な水質汚濁に苦しんでいた。経済成長と都市化に伴い、産業排水や生活排水の流入が増加し、COD(化学的酸素要求量)の数値は改善の兆しを見せなかった。特に窒素やリンの過剰な流入は富栄養化を招き、赤潮や青潮を引き起こし、漁業や生態系に甚大な影響を与えていた。こうした事態に対応するため、環境庁は第5次総量規制を策定し、従来のCOD規制に加えて窒素とリンを新たに規制対象に加える方針を示したのである。

この方針により、化学工業、食品加工業、畜産業、下水道事業など広範な分野が対応を迫られることになった。産業界にとっては大きな負担であったが、一方で技術革新を後押しする契機ともなった。下水処理場では高度処理技術が導入され、特に脱窒処理と生物学的リン除去技術が進展した。活性汚泥法を改良した「A2O法」や「オキシデーションディッチ法」は、窒素とリンを効率的に除去し、放流水の水質を大きく改善した。また、凝集沈殿法や高性能膜分離技術も導入され、処理水の再利用や水資源循環の一端を担った。

さらに、産業界でもリンの回収技術が開発され、肥料として再利用する試みが広がった。下水汚泥や排水からリンを取り出し、資源循環に組み込むことで、廃棄物削減と資源確保を同時に実現しようとする動きである。このような技術の進展は、単なる環境規制への対応にとどまらず、持続可能な生産と循環型社会の実現を目指す大きな一歩となった。

1992年のリオ地球サミットを契機に、日本でも「持続可能な開発」が国の政策課題となり、1997年の京都議定書採択は環境規制強化の流れを後押しした。1999年の総量規制強化は、その国際的潮流と呼応し、環境行政を「量の削減」から「質の改善」へと転換させた象徴的な施策であった。沿岸の海を守り、青き水を次世代へと引き継ぐための試みは、この時代に着実に始動したのである。

No comments:

Post a Comment