環境 闇を越える廃棄物の旅路 ― 2000年代の欧州における環境犯罪の実相
2000年代に入り、先進国から途上国への廃棄物輸出は国際的な環境犯罪として強い関心を集めるようになった。都市ごみや産業廃棄物が増大するなかで、先進国では厳格な処理基準や高いコストを回避するために、電子廃棄物や有害廃棄物が「リサイクル」の名目でアジアやアフリカ諸国へと流れ込んだ。ガーナやナイジェリアの港に積み上げられた電子機器の山は、その象徴として世界に衝撃を与えた。これに対抗する国際的な枠組みとしてバーゼル条約が存在していたが、監視や罰則が各国に委ねられていたため実効性は不十分であり、違法輸出は後を絶たなかった。
そうした状況下で、ドイツ連邦内閣は2007年に廃棄物輸送法の改正案を承認し、違法輸出に対する罰金を従来の5万ユーロから10万ユーロに引き上げるとともに、州当局の監視権限を強化した。トラックや船舶、鉄道による廃棄物輸送の監視を義務化し、国境越えの段階で摘発を可能にする仕組みも整えた。これは同年施行されたEU廃棄物輸送規則に基づく国内法整備であり、欧州全体に広がる環境犯罪対策の潮流の中で位置づけられるものだった。
同時に関連技術の導入も進められた。従来の紙ベースのマニフェストに代わり、バーコードやICタグを用いた電子マニフェストシステムが整備され、港湾ではコンテナスキャナーや放射線検知器が活用された。廃棄物の「見えない流れ」を可視化し、追跡可能とする試みは、単なる技術導入ではなく環境犯罪そのものを封じ込めるための実験であった。さらに国際刑事警察機構もこの動きを支え、環境犯罪を麻薬や武器、人身取引と並ぶ重大な国際犯罪として捉え、捜査網を拡充した。
このように、2000年代の欧州で進められた廃棄物輸送規制の強化は、単なる国内法改正にとどまらず、国際的な環境犯罪の抑止に向けた先駆的な取り組みであった。規制と技術の両輪によって、廃棄物が越える国境の闇を照らし出そうとする動きは、後の国際的な環境対策の指標となったのである。
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