Monday, August 11, 2025

闇を見抜く眼—産廃業界のブラックリスト幻想 2000年前後

闇を見抜く眼—産廃業界のブラックリスト幻想 2000年前後

2000年前後、日本の産業廃棄物処理業界は、法整備と現場実態の乖離が極限に達していた。循環型社会形成推進基本法や、家電リサイクル法、建設リサイクル法などが次々に施行され、ISO14001の取得が企業の社会的信用の証とされた。しかし、その一方で最終処分場の不足は深刻化し、中間処理施設は能力限界に達していた。受け入れ先のない廃棄物は、正規の流通から外れ、不法投棄や不適正処理の温床となった。許可業者とされる者でさえ、裏ではアウトロー業者とつながり、廃棄物が最終処分場まで届いたはずなのに、翌朝には跡形もなく消える事例が珍しくなかった。

この混沌の中で、企業の環境担当者は常に神経をすり減らしていた。どの業者が信頼でき、誰に依頼すれば不祥事を避けられるのか。判断材料は乏しく、「不良業者のブラックリストが喉から手が出るほど欲しい」という声が漏れた。しかし現実には、優良とされる業者と不良業者の線引きは曖昧で、長年の老舗であっても不法投棄現場に名が出るリスクは消えない。業界は表と裏の顔を使い分け、プロですら予見できない不正が日常的に潜んでいた。

技術面では、電子マニフェスト制度の導入や廃棄物トレーサビリティシステムの構想が進められていたが、当時はまだ普及途上で、紙ベースのマニフェストの空伝、つまり「処理済み印だけ押された偽書類」が横行していた。RFIDタグやGPS車両追跡といった物流監視技術も実験段階に過ぎず、現場の不正を封じるには至らなかった。こうして制度疲労と技術不足が重なり、「安全な処理を保証する術がない」という現場の無力感が支配していた。

この「ブラックリスト幻想」は、単なる愚痴ではなく、当時の産廃業界における情報の非対称性と不信感、そして制度と技術の未成熟が生んだ象徴的な叫びであった。

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