緑の矛盾、森の囁き──木質バイオマスに揺れる希望と危うさ(2003年5月)
2003年5月、日本では「循環型社会」の実現が国策として掲げられ、再生可能エネルギーの導入が加速していた。その中でも、林業衰退の打開策として注目を集めていたのが、木質バイオマスだった。間伐材や伐採木を燃料に再利用するこの試みは、森林整備と温暖化対策を同時に進める「エコの切り札」として、地方自治体や民間企業、国の政策まで巻き込んで推進されていた。
だが、その希望の裏には、静かだが確かな警鐘が鳴っていた。「木を燃やす」という行為が、果たして本当に自然との共生たりうるのか――。森を育むには、ただ伐るだけでなく、保全と循環のバランスが不可欠である。過度な需要は、かえって森林の健全な成長を妨げ、表土の流出、生物多様性の損失、CO2吸収能力の低下といった副作用を招く。特に、間伐材が商品化されることで、伐採が目的化する危険も指摘され始めていた。
さらに、当時の日本では山村の過疎化が進み、林業の担い手不足も深刻だった。木を切っても、その後の再植林や管理が行き届かず、放置された山々は、むしろ荒廃を深めていった。バイオマスという「新たな資源」は、皮肉にも「森を蝕む刃」となりうる危険性を孕んでいたのだ。
エコであることは、本当に自然を救うのか。善意で始めた取り組みが、環境破壊へとつながる矛盾。それは、グリーンであること自体を問い直す必要があるという、時代からの静かな要請だった。
森は語る。「使われるだけの存在ではない」と。
そして、私たちは問われている。
この緑の未来に、耳を澄ませる覚悟があるかどうかを。
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