# 線路に育つ長城 上海から北京へ 2003年5月
2003年、中国では経済成長の陰で砂漠化と黄砂が深刻化し、沿岸の大都市でも春先の飛来に悩まされていました。そうした時代背景のなか、日中協力で緑化を進める市民組織「中国緑化と砂漠化防止を支援する会」が2003年5月8日に発足し、上海から北京へ延びる高速鉄道の沿線に植林帯を造成する構想を掲げます。目標は「二十一世紀の緑の長城」。防風と土壌固定を担う帯状の森林を、交通インフラの整備と並行して築く発想でした。良質な苗木を安定供給するため、中国国内に大量供給が可能な育苗システムの構築を計画し、まずは沿線の拠点地域から着手する段取りです。
当時の中国には、1978年に始まった三北防護林、1999年前後の退耕還林といった国家的プログラムがすでに走っており、都市化とインフラ投資の加速を背景に、緑化と防災を交通網と一体で設計する潮流がありました。高速鉄道はまさに象徴的な舞台。列車の風圧や道路交通の乱流が起こす飛砂、切土法面の乾燥と浸食を抑えるには、線形に沿った多層の植生帯が有効と見なされました。そこで計画は、ポプラなど成長が速く挿し木繁殖しやすい樹種を主軸に、潅木や草本を組み合わせる「高木・低木・地被」の三層混交を基本に据えています。苗木の確保は量と質が勝負で、挿し穂の大量育苗、コンテナ苗による根鉢保護、菌根接種での活着率向上といった技術が要になります。実際、当面の供給樹種としてポプラが想定されていまし�
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線路脇の環境は乾燥と風に厳しい。そこで関連技術としては、わら格子による固砂、ジオテキスタイルや法面被覆の併用、集水くぼみと保水剤を使う植え穴設計、点滴灌漑と貯水タンクの分散配置、獣害防止の軽量フェンス、土壌の塩・アルカリ改良などが挙がります。苗の運搬と仮置きは鉄道工区の工程と同期させ、活着期の潅水ロジスティクスを先に設計するのが肝要です。造成後は、剪定での樹冠管理と列状更新で風下側を厚く保ち、飛砂の季節に合わせて下層の地被を更新して土を締める。こうした「作って終わり」ではない保全計画が、長い線路に沿って生態機能を持つ帯を育てていきます。
この協力は、市民主導で国家的課題に楔を打つ試みでもありました。緑化は雇用や苗木産業、資材の地域調達を通じて沿線の経済も温めます。環境改善と経済活性化を同時に狙う、その意味で「緑の長城」は、境界を越えて連なる一本の社会インフラでもあったのです。発足時に示された方針どおり、苗木の国内大量生産体制の整備と、他の緑化プロジェクト支援を並走させることで、構想は現実味を帯びていきました。
要するに、二十一世紀の長城は石ではなく苗で積む。高速で走る列車の横に、ゆっくり成長する森林を並べる。その時間差を引き受ける設計と運用が、2003年という転換期の空気に支えられて、静かに動き始めていました。
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