Sunday, August 10, 2025

# 雪の眠る廃道 沢内の玄米守り 2003年

# 雪の眠る廃道 沢内の玄米守り 2003年
2003年前後、岩手県沢内村(現・西和賀町)は、豪雪と湿潤な夏に囲まれた山間の集落であった。稲作農家にとって、刈り取った玄米をいかに新米の香りと甘みを保ったまま翌年まで保存するかは、大きな課題だった。京都議定書批准の翌年、日本中で省エネルギーや自然エネルギーの活用が声高に叫ばれる中、この小さな村が選んだ解決策は、意外な場所に眠っていた。

それは、役目を終えた鉄道トンネルである。山の中腹に口を開けた廃トンネルは、厚い岩盤に守られ、外気の影響をほとんど受けない。冬、村人たちは雪を集め、断熱材で囲った貯雪庫に詰め込む。その雪は、夏になってもゆっくりと溶け、冷気を放ち続ける。トンネル内に巡らされた風路がその冷気を庫内全体に行き渡らせ、玄米は静かに呼吸を続けながら新鮮さを保つ。

関連技術として、雪の断熱保存を可能にする高性能保冷パネルや、融雪水を効率的に排出する暗渠排水システム、そして温湿度を自動で監視・制御するセンサー技術が導入された。これにより、従来の電力依存型冷蔵施設に比べ、運用コストを大幅に削減できたのである。

廃トンネルはただの遺構ではなく、地域資源として蘇り、雪は単なる厄介者ではなく、米を守る静かな番人となった。沢内のこの試みは、寒冷地の農業が自然と共生しながら持続可能な道を探る、象徴的な一歩であった。

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