ロボット労働の広がりと産業構造の転換(2010年代前半)
2010年代に入ると、産業用ロボットやサービスロボットが急速に普及し始めた。特にホテルや飲食業では、省力化や人件費削減を目的に、ルームサービスや簡単な調理をロボットに任せる事例が増えた。米国や日本の大都市では、客室に歯ブラシを届けるロボットや、ハンバーガーを自動調理する専用ロボットが実際に導入され、話題を呼んだ。
こうした動きの背景には二つの要因があった。第一に、金融危機後の景気停滞で企業がコスト削減に追われていたこと。第二に、センサーやAI、クラウド制御の進歩により、人間が担ってきた単純作業をロボットに移行できる技術的基盤が整いつつあったことである。
2013年、オックスフォード大学のフレイとオズボーンが発表した研究は、米国の雇用の47%が自動化で代替可能と予測し、大きな衝撃を与えた。特に、事務職や販売、輸送といった中間技能労働が最もリスクにさらされるとされた。この報告は「第二の機械時代」という議論を呼び、産業構造が根底から揺らぐ未来が現実味を帯びて語られるようになった。
当時はまた、アマゾンの倉庫で導入されたKivaロボットが効率性を劇的に高めたことが注目され、物流や小売における自動化の波が一気に加速していた。日本でも少子高齢化と人手不足への対応策として、サービスロボットの実証実験が相次ぎ、社会的な期待と懸念が入り混じった。
ロボット労働の拡大は、利便性と効率性をもたらす一方で、雇用の喪失や所得格差の拡大を招く危険を孕んでいた。技術革新が人間の仕事を奪うのか、それとも新たな職業を生むのか――その答えを模索する時代が、まさにこの時期に始まったのである。
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