Sunday, August 24, 2025

富裕国の制度的強みと移民危機 ― 21世紀初頭の岐路

富裕国の制度的強みと移民危機 ― 21世紀初頭の岐路

21世紀初頭、気候変動は人類の移動を加速させ、各国の制度的対応力が試されている。北半球の富裕国は強固な行政機構やインフラを備え、災害後の復旧や生活基盤の維持において優位に立つ。例えば欧州連合は気候適応策やエネルギー転換を掲げ、アメリカやカナダも防災技術や経済力を背景に難局をしのぐ力を持つとされた。しかし、この制度的強さは必ずしも移民受け入れの柔軟さには結びつかない。

当時の国際情勢を見ると、2000年代初頭にはアフガニスタンやイラク戦争に伴う難民流入が欧米諸国の政治を揺さぶっていた。さらに中東やアフリカからの移民が欧州各地で急増し、反移民を掲げる政党が台頭する背景となった。富裕国にとって数十万規模の移民でさえ国内政治を分断し、文化的対立や治安不安への恐怖を増幅させる要因となった。これに対し、バングラデシュやスーダンなどの貧困国は数百万単位の避難民を抱えながらも、制度や財政基盤が脆弱で国際援助に依存するしかなかった。

こうした対比が移民危機と呼ばれる所以である。危機の本質は移住者数そのものよりも、受け入れる側の政治的合意形成能力の欠如にあった。当時、国連や世界銀行は移民問題を安全保障、人道、気候適応の三つの軸で捉える必要を提唱し、また技術的にはGISによる移動予測やバイオメトリクスによる入国管理が導入され始めていた。しかし、制度的余力のある富裕国が実際には受け入れに消極的であったことが、国際的な緊張を一層深めたのである。

この矛盾は今に至るまで続いており、当時の議論は気候変動時代の人の移動をどう捉えるかという根源的な問いを突きつけていた。

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