パタゴニアの可能性 ― 南半球に残された余地 21世紀初頭
21世紀初頭、気候変動の影響は地球規模で深刻化しつつあり、住める土地の選択肢は急速に狭まりつつあった。特に南半球では赤道に近い地域が高温化や干ばつに苦しみ、オーストラリアやアフリカ南部では森林火災や水不足が深刻化していた。その中で、アルゼンチンとチリにまたがるパタゴニアは比較的穏やかな気候を維持し、農業や定住がまだ可能と見なされていた。広大な草原や氷河に支えられた淡水資源、風力や水力といった再生可能エネルギーの潜在力は、他の南半球の地域に比べて優位とされた。
当時の時代背景を振り返れば、アルゼンチンやチリは2000年代初頭に経済危機を経験し、政治の不安定さが社会に影を落としていた。しかし同時に、両国は資源の豊かさと農業基盤を背景に再生の道を模索しており、パタゴニアは新たなフロンティアとして一部の研究者や投資家から注目を集めていた。とりわけ風力発電の適地として知られるパタゴニア平原は、再生可能エネルギー時代の象徴的地域とみなされるようになった。
しかし北半球と比較すれば、南半球に残された選択肢は限られている。人口集中やインフラ整備の蓄積は北半球に偏り、世界の経済と文化の重心も依然として北にある。そのため大規模な気候移民の流れは最終的に北を目指すと予測され、パタゴニアの可能性は地域的な補完にとどまると見なされていた。つまり、パタゴニアは南半球における最後の避難所でありながら、地球規模の人口移動の主流を変えるほどの力は持たないと認識されていたのである。
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