### 環境 居住不能地帯の拡大 ― 21世紀初頭の時代背景を踏まえて

### 環境 居住不能地帯の拡大 ― 21世紀初頭の時代背景を踏まえて

研究によれば、人類がこれまで文明を築いてきた快適な気候条件、すなわち平均気温十三から二十五度の範囲から、今後は数十億人が締め出される可能性があるとされている。移住をしなければ、地球人口の三分の一が平均気温二十九度を超える地域に暮らすことになり、サハラ砂漠のような酷暑が日常の現実となると予測されている。この見通しは二十一世紀初頭にすでに議論されており、科学的知見の蓄積が人類の未来に深刻な警鐘を鳴らしていた。

当時は一九九七年の京都議定書が発効し、二度以内の気温上昇に抑制する目標が国際的に共有された。しかし米国の離脱や新興国の排出拡大により削減は進まず、現実には気温上昇は止まらなかった。インドやパキスタンでは熱波が繰り返し発生し、中東では昼夜を問わず四〇度を超える環境が常態化し、死者が増加した。アフリカのサヘル地帯では干ばつと食糧不足が深刻化し、難民の流出が国際問題化した。こうした現象は単なる未来予測ではなく、すでに始まっている危機として世界を揺さぶっていた。

この時期、急速な人口増加と都市化も事態を悪化させた。冷房設備や電力網が不十分な南アジアやアフリカでは数億人が酷暑にさらされ、熱中症や水不足が深刻な社会問題となった。技術的には、耐暑性作物の開発、省エネ建築資材の導入、高効率冷房技術などが模索されたが、不平等のため普及は限られた。結果として「移住」が現実的な解決策として浮上し、カナダや北欧の高緯度地域が移住先候補として注目された。冷戦後の国際秩序のもとで「気候難民」という新しい国際課題が顕在化したのもこの時期である。

こうして居住不能地帯の拡大は、科学的警鐘、人口動態、政治の停滞、技術革新の限界が重なり合い、二十一世紀初頭の時代背景に深く根ざした「人類の生存危機」として語られていった。