### 環境 氷解による新たなリスク ― 21世紀初頭の時代背景を踏まえて

### 環境 氷解による新たなリスク ― 21世紀初頭の時代背景を踏まえて

21世紀初頭の気候変動をめぐる議論では、北極圏やシベリアの氷解が注目を集めていた。氷の後退によって新しい居住や資源開発の可能性が広がる一方で、永久凍土の融解がもたらす深刻なリスクが警告されていたのである。永久凍土には長い時間をかけて蓄積された膨大な有機物が閉じ込められており、これが融解によって二酸化炭素やメタンとして大気に放出されると温暖化は一層加速する。その連鎖は地球規模での気候悪化を早める要因として強い関心を呼んだ。しかし、問題は温室効果ガスの放出だけではなかった。数千年から数万年前の氷に封じ込められていた細菌やウイルスが再び活動を開始する危険性が指摘され、人類が未知の病原体と直面する可能性が現実味を帯びてきた。

2010年代にはシベリアの凍土から復活した巨大ウイルスの発見が報告され、古代の病原体が解放される事態が単なる仮説ではないことが示された。さらに2016年、シベリアのヤマル半島で炭疽菌が再び出現し数千頭のトナカイが死亡、人間の感染者まで確認された。この事件は70年以上前に炭疽で死亡したトナカイの死骸が凍土の融解によって露出し、そこから菌が拡散した結果とされる。氷の中に眠る脅威が再び現代社会に災いを及ぼす可能性があることを示す象徴的な出来事であった。

同時に氷解は地政学的にも影響を及ぼした。北極海の航路や資源が利用可能になることで人類活動は北方地域へ拡大し、感染症や環境リスクに直面する確率は高まった。こうして氷解は「居住空間の拡大」と「未知の病原体の解放」という二面性を帯び、21世紀初頭の人類にとって新しい危機的状況の一つと位置づけられたのである。