Saturday, August 16, 2025

花柳寿楽―時代をまたぎ舞う間合い―昭和前期から戦後まで

花柳寿楽―時代をまたぎ舞う間合い―昭和前期から戦後まで

花柳寿楽は、日本舞踊界において長く第一線で活躍した舞踊家であり、その舞いは昭和前期から戦後にかけての激動の時代をくぐり抜けてきた存在感を放っていた。昭和初期、日本社会は近代化と伝統文化のせめぎ合いの中にあり、舞台芸術も西洋演劇やオペラ、映画の台頭によって新たな表現手法を模索していた。寿楽はそうした時代にあって、古典舞踊の様式を守りながらも、新しい感覚を取り入れた舞台を展開した。

戦時下には芸能活動も統制を受け、舞台上での表現は制約を受けたが、寿楽は限られた場の中で間合いや所作に深い意味を込め、観客の想像力を喚起する演出を続けた。戦後は占領期の文化解放の中で再び舞台が活気を取り戻し、寿楽の舞台も古典の再評価と新作上演が並行して行われた。特に「間」の美学を重んじる演技は、単なる舞踏技術を超えて、時代の精神や空気感を映すものとして高く評価された。

花柳寿楽の存在は、昭和の日本舞踊界における橋渡し的役割を果たし、伝統の維持と革新の両立を体現した。彼の舞は、戦前・戦中・戦後を通じて日本人の美意識に寄り添い、その間合いには失われゆくものと生まれくるものが共存していたのである。

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