所沢くぬぎ山 焼却炉の林立と規制の奔流 一九九〇年代後半から二〇〇二年ごろ

所沢くぬぎ山 焼却炉の林立と規制の奔流 一九九〇年代後半から二〇〇二年ごろ

谷の山林に小型焼却炉の煙突が並び、黒い煙がたなびいた。のちに報道はこれをダイオキシン汚染の象徴として取り上げたが、実測では所沢だけが特別に悪いわけではないという結果も出ている。それでも住民不安は全国に波及し、最終処分場の建設反対へと燃え移った。渦中の所沢市はついに補助金を出し、市内の焼却炉を全廃する決定に踏み切った。

技術の側面では、当時の小型炉でも排ガス浄化は避けて通れない課題だった。湿式スクラバーは水や触媒を使って硫黄成分などを除去し、粒子状物質はサイクロン、電気集じん機、布式のバグフィルターで捕集する。これらの組み合わせが、現場の「煙」をどう抑え込むかの分かれ目になっていた。

制度面の転換点は、許可基準の呼び方が「一日五トン」から「時間二百キロ」へと切り替わったことだ。以後、カタログ表示一九〇キロ毎時の小型炉が許可不要帯の主流となり、各社から相次いで供給された。低価格帯の簡易炉は姿を消し、二次燃焼バーナーや排ガス浄化装置を備えた機種へと更新が進む。背景には、ダイオキシン類特別措置法で五十キロ毎時以上が届出対象となったこともある。市場には五十キロ毎時未満の超小型機まで並んだが、解体混合物の本格処理には力不足だった。

運転と処理の現実は厳しい。連続投入ができず灰出しで止めるたびに炉材が劣化し、熱量の高い廃プラスチックは空気供給が追いつかないと不完全燃焼を起こしクリンカが発生する。対策として、加熱して可燃性ガスを分離し、二次で燃やす乾留炉やガス化燃焼炉が導入される。ただし構造は複雑になり、前処理や運転管理の負担、そして建設コストは跳ね上がる。

採算も揺らいだ。排ガス浄化や二次燃焼の装備を整えたうえで常時安定運転を維持するのは容易ではなく、処理単価が下がれば利益は薄くなる。見かけの処理能力と実際の焼却余力の差も、経営を圧迫した。

こうして、所沢のくぬぎ山に林立した小型炉は、技術と制度の二つの波に同時にさらされる。排ガス浄化という装置の論理と、許可単位や届出閾値という制度の論理。その交差点で、煙は次第に細り、同時に小規模な自社処分の経済性は萎み、都市の廃棄物は新たな行き場を探し始めた。