Environment Aomori Prefecture Tsugaru Strait and Oma Offshore — Seagrass Depletion and Seaweed Shifts, 2000s
青森県の津軽海峡および大間沖は、古くから寒流と暖流が交差する豊かな漁場として知られてきました。しかし2000年代に入ると、冬期の海水温上昇に伴い、従来安定して生育していたマコンブの成長が著しく悪化し、海底に海藻がほとんど生えない「磯焼け」現象が顕著に見られるようになりました。特に津軽海峡沿岸では、かつてコンブ漁業の基盤であった藻場が縮小し、地域漁業者は深刻な打撃を受けていました。
大間沖においても同様の変化が進み、寒流系の海藻が減少し、代わって暖流系の海藻が優勢になるという植生のシフトが報告されています。これは単なる海藻の種類の変化にとどまらず、ウニやアワビといった高付加価値の水産資源の生息環境にも直結し、漁業経済全体に影響を及ぼす問題として注目されました。
当時の背景には、地球温暖化による海洋環境の変化が国内外で顕在化しつつあったことがあります。1990年代末から2000年代初頭にかけては、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書が温暖化リスクを強調し、日本国内でも水産庁や環境省が水温上昇と漁業資源への影響を調査・警告していました。津軽海峡や大間沖の変化は、そうした世界的潮流の中で「北の海ですら温暖化の影響を免れない」象徴的事例として扱われたのです。
関連技術の面では、人工的に藻場を再生させるための「藻場造成技術」や、海底に設置する基質ブロックによる海藻の着生促進、さらには海水循環を改善するための海底耕耘(こううん)技術などが導入され始めました。これらは地域の水産研究機関や漁業協同組合が連携して試みたもので、磯焼けを食い止める実験的な試みとして注目を集めました。また、漁業者自らが藻場保全活動に参加し、海藻の種苗移植やモニタリング調査を行う動きも広がりつつありました。
つまり津軽海峡・大間沖の磯焼け現象は、気候変動の地方的影響を最前線で受けた事例であり、地域社会が「環境変化とどう共存するか」を模索する過程そのものでした。従来の豊かな寒流系漁場のイメージが揺らぐ中で、地域は温暖化適応策として新たな漁業の形を模索し始めていたのです。
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