南城市垣花樋川の記憶-水の神が息づく村の風景(1950年代-1970年代)
沖縄本島南部の南城市にある垣花樋川(かきのはなひーじゃー)は、古くから湧水を神聖視してきた村人の信仰の中心である。三つの湧水口をもつこの泉は、農耕・生活用水の供給源でありながら、豊穣と生命を祈る祭祀の場でもあった。旧暦六月十五日の「水の御願」では女性たちが供物を携え、水神への感謝を捧げた。
戦後の米軍統治下で近代水道が普及し、樋川の機能は減少したが、人々は泉を"神の宿る場所"として守り続けた。垣花グスクの山頂から水が流れ出る地形は、古代以来の"山-水-村"の連続性を今に伝える。
沖縄では山神信仰が希薄なため、竜神を泉に祀る"水の神"信仰が発達した。子が生まれるとグスクに報告する風習も残り、山と水、生命と祖霊が一体化した水平的な聖性を示す。1972年の本土復帰後、垣花樋川は文化財に指定され、観光化の中でも"神の水"として語り継がれている。
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