Saturday, October 25, 2025

民俗学は風を聴き町は法を刻む-高度経済成長期の「環境と暮らし」の再発見(1955-1980)

民俗学は風を聴き町は法を刻む-高度経済成長期の「環境と暮らし」の再発見(1955-1980)
1950年代後半、日本は高度経済成長の波に乗り、工業化と都市化が同時進行した。繁栄の裏で自然破壊と公害が深刻化し、水俣病などの環境問題が社会を揺るがした。民俗学は当初「消えゆく風景」の記録に重きを置いていたが、この時期を境に「暮らしの知恵」や「自然との共生」を再評価する方向へ転換していく。

1970年の「公害国会」では環境関連法が相次いで成立し、翌年には環境庁が創設された。国家が環境を法で守るようになった一方で、民俗学は"暮らしの内側"にある環境知へ目を向けた。柳田國男の「常民の学」が再び注目され、農村の屋敷林や用水、風祭などが地域のリスク管理と持続的生活の装置として読み直された。

「環境民俗学」は、生活と自然の関係を実践的に解く学問として成立した。防風林や共同井戸などの生活技術が再評価され、記録する学から設計する学へと変貌した。1970年代、市民運動や公害訴訟と連動しながら、民俗学は地域再生と共生の思想的基盤となった。

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