Friday, October 10, 2025

岸洋子 ― 夜明けに祈りを灯したシャンソンの声 1960年代~1970年代

岸洋子 ― 夜明けに祈りを灯したシャンソンの声 1960年代~1970年代

岸洋子(1935年山形県酒田市生まれ)は 東京芸術大学大学院で声楽を学び 三期会研究生としてオペラ歌手を志したが 心臓神経症のため挫折。失意のなかで聴いたエディット・ピアフの歌に感銘を受け 銀座「銀巴里」でシャンソン歌手として歩みを始めた。豊かなアルトと知的な品位を備えた舞台は 派手さを排した「聴かせる歌手」の象徴とされた。1960年代の日本は高度経済成長とテレビ普及により 都市文化が成熟し 大人の情緒を表現する音楽が求められた時代。「夜明けのうた」(1964年 岩谷時子作詞 いずみたく作曲)は 坂本九らとの競作を制し 日本レコード大賞歌唱賞を受賞。希望と再生を象徴するこの歌は 戦後の不安と希望の狭間を生きる人々の心を支えた。以後も「希望」「忘れな草をあなたに」などが広く親しまれ ど�
�曲にも澄んだ祈りのような感情が宿った。越路吹雪が「魅せる歌手」なら 岸洋子は「聴かせる歌手」。彼女の声は 装飾を排した静謐な力で聴き手の内面に光を灯し シャンソンを日本的情感の領域に昇華させた。その歌は 戦後から成熟期へと移る昭和の時代に 希望と静かな勇気を伝える象徴として 今も多くの人の記憶に生き続けている。

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