小長井町の風力発電による売電収益(長崎県)―2004年5月
2004年前後の日本は、地球温暖化対策の国際交渉が山場を迎え、京都議定書が2005年2月16日に発効する直前期だった。日本政府は2002年に京都議定書の受諾を決定し、温室効果ガス削減に向けた国内制度設計を急いでいた。こうした流れの中で、電力小売に新エネルギー利用を義務付けるRPS制度(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)が2003年度から始まり、地方の再エネ導入を後押しした。のちに2012年7月1日に固定価格買取制度(FIT)が導入されるが、本件はその前夜に位置づく取り組みである。
長崎県小長井町(2005年3月1日に諫早市へ合併)は、有明海に面した風の通り道を生かし、段階的に風力発電機を整備した。NEDOの導入実績によれば、まず1998年に三菱重工製300kWの1基を試験研究用に、続いて2000年と2002年にVestas製600kWを各1基、いずれも売電事業として設置している(合計3基、出力1500kW)。地域主導の小規模分散型としては当時先進的な構成だった。
2003年度には、3基のフル稼働もあって売電収益が過去最高の2000万円超に達した。発電電力は町振興公社が運営する山茶花高原ピクニックパークやハーブ園で活用し、余剰分を九州電力へ売電。視察も活発で、同年度には14団体250人が訪れ、観光や環境学習の面でも波及効果が生まれた。
当時の全国動向を見ると、風力の累積導入量は2003年度末で約644MW、2004年度末には約936MWへ拡大し、政府が掲げた2010年目標3000MWに向け市場が立ち上がりつつあった。RPSの義務づけと補助制度が追い風になり、自治体・第三セクター・地域事業者の参画が相次いだ。小長井町のような小規模案件は、系統や用地の制約が比較的少ない沿岸部で着実に成果を上げ、のちのFIT時代の地域主導型再エネ事業の先例となった。
総じて小長井町の事例は、RPS期における「環境と地域経済の両立」モデルの一つである。合併を経て諫早市の一部となった現在も、風況と観光資源を組み合わせた地域発のエネルギー活用という文脈で読み直す価値がある。
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