灰と蒸気の街に挑む熱 ― ウランバートルESCO改良計画(2006–2007年)
モンゴルの首都ウランバートルは、冬季の極寒と石炭暖房による大気汚染が深刻な都市である。国内人口の半数以上が集中し、冬は‐40℃近くまで冷え込む中、暖房需要が膨らむなかで、古く非効率なボイラー設備が排煙とCO₂を大量に排出していた。
このような課題の中で、日本の三菱証券がコンサルタントを務め、ウランバートルの熱供給ボイラーを修繕・交換するESCO事業が提案された。既存の非効率ボイラー(効率およそ40~60%程度)を高効率型に置き換えることで、効率を大幅に改善し、温室効果ガスの削減とともに大気汚染物質(NOx、CO等)の排出低減を図る設計だった。
CDM(クリーン開発メカニズム)枠組みの下、このプロジェクトは理事会承認を得て、14万トン超のCO₂クレジット取得を見込まれたとされる。実施には現地ESCO事業者「Anu Servis」も関与し、地域技術と国際資金の協業が展開された。
このプロジェクトには、ボイラー効率を国際規格で検証し、追加性(Additionality)を示すなど複数の技術的・制度的ハードルが存在した。また、都市暖房ネットワークの老朽化や送熱ロスなども課題であり、インフラ全体の改善が求められた。
この取り組みは、技術移転・資金協力・制度設計を一体化させた国際環境経済の典型例であり、寒冷地都市が直面するエネルギー効率化と環境改善のモデルとして注目された。その後、ウランバートルでは再生可能熱源導入を視野に入れた改修計画が進められ、このESCO事業が先導的な役割を果たしたと評価されている。
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