物語が罠を仕掛けるとき 講釈の誤り ブラックスワン 2025年12月
講釈の誤りとは、タレブがナラティブの誤謬と呼ぶ、人間の思考に深く根差した癖である。出来事が起こったあとで断片的な事実を拾い集め、それらを一本の因果ストーリーとして整えてしまう。そのため偶然が積み重なって成立した出来事も、あたかも最初から必然だったかのように見えてしまう。タレブは、こうした事後的物語化が世界の複雑さを覆い隠し、予測可能だったという錯覚を生むと警告した。
成功企業の物語はこの典型で、語られるのは卓越したリーダーシップや戦略といった原因ばかりである。しかしその背後には語られることのない膨大な失敗が横たわり、語られた成功だけを見ると世界は本来以上に滑らかな秩序を持つかのように錯覚される。この構造は物言わぬ証拠の問題とも密接に関わる。
極端事象においても同様である。金融危機、テロ、パンデミックなど、本来予測がほぼ不可能だった出来事でさえ、後からは兆候があった、必然だったと語られてしまう。講釈は過去を理解しやすくするが、未来への警戒心を鈍らせる。後知恵の筋書きに酔うほど、ブラックスワンの存在は視界から薄れていく。
人間は物語を通して世界を理解しようとする。しかしその性質こそが偶然と不確実性の重要性を過小評価させる。講釈の誤りは、語られた物語をそのまま真実と信じ込み、世界のざらつきや非連続性を忘れてしまうときに生じる。世界は物語ほど均整ではなく、しばしば飛躍し、予測不能の瞬間によって大きく形を変える。ブラックスワンはまさにその断層から姿を現す。
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