Sunday, December 7, 2025

獣害の増加と山の手入れの問題 山村が失った均衡と再生への問い

獣害の増加と山の手入れの問題 山村が失った均衡と再生への問い

戦後から高度経済成長期にかけて、日本の山村は大きな構造変化にさらされた。林業が主要産業として成り立っていた時代には、薪炭材の採取、下草刈り、間伐、山菜採りなど、多様な作業が日常的に行われ、山の生態系は人の関与によって健やかに保たれていた。しかし昭和三〇年代以降、外材流入や林業衰退、農業人口の減少、若者の都市流出などが重なり、山に入る人々が減少した結果、山の管理は行き届かなくなった。

手入れが滞った人工林では光が差し込まず下層植生が衰退し、餌を求めてシカやイノシシが人里へ出没するようになった。かつて山の奥に棲んでいた獣が畑を荒らし集落近くまで降りてくる現象は、山と人間社会の均衡が崩れた象徴とされる。これは生態的変化であると同時に、戦後の急速な経済発展と山村の構造的衰退が生み出した現象でもあった。

山には原生林だけでなく、人が手入れをして維持してきた二次的自然が広がっている。里山、薪炭林、採草地などの環境は、適切な管理があってこそ維持される。しかし管理の担い手が失われれば植生は変質し、山の治水機能や生態系のバランスも崩れ、災害リスクも高まる。乱開発だけでなく管理不足そのものが山村を脅かす重要な要因として浮かび上がっている。

獣害の増加は、人と山が長く築いてきた境界が弱まりつつあることの警鐘と言える。山は人が関わることで守られ、人は山の循環に支えられてきた。その関係が希薄化した現代、山村は新たな形での共生と持続可能性の再構築を求められている。

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