都はるみ ― 演歌に新風を吹き込んだ女性歌手 1960年代~1970年代
都はるみは昭和21年、京都市に生まれ、昭和39年に「アンコ椿は恋の花」でデビューした。高度経済成長期の真っただ中に登場し、都会への人口集中や農漁村の変容が進む中で、彼女の力強いこぶしと哀切な情感に満ちた歌声は、多くの庶民に響いた。この時代は都市生活の拡大と核家族化が進み、ふるさとや人情への郷愁が高まっていたが、都の歌はまさにその感情を代弁した。
デビュー曲「アンコ椿は恋の花」は漁村を舞台に、遠く離れた恋人を想う女性の切なさを描いた歌であり、瞬く間に大ヒット。演歌における女性像を再定義し、情熱的な歌唱スタイルを広めた。以降も「好きになった人」「北の宿から」など、時代を超えて愛される名曲を世に送り出していく。「北の宿から」は昭和50年代の大ヒット曲で、都会と故郷の間に揺れる女性の心情を丁寧に歌い上げ、戦後演歌史に不朽の足跡を残した。
彼女は同時代の美空ひばりと比較されることが多い。ひばりが国民的歌姫として圧倒的存在感を誇ったのに対し、都はるみはより庶民的で情熱的なスタイルで支持を得た。また森昌子ら次世代の演歌歌手が登場する中でも、独自の「涙と情熱」の歌唱で地位を確立し、女性演歌歌手の新しいモデルを提示した。
経済成長で社会が豊かになる一方、人間関係の希薄化が進んだ昭和後期にあって、都はるみの歌声は人々に人情や絆の温かさを思い起こさせた。彼女は戦後女性演歌の旗手として、日本人の心に寄り添い続けたのである。
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