2024年8月14日水曜日

ユヴァル・ノア・ハラリ「ホモ・デウス」第4章 物語の語り手



ユヴァル・ノア・ハラリの著書『ホモ・デウス』第4章では、物語や虚構について議論されています。特に、物語が人間の社会性や組織力に与える影響について深く考察されています。この書籍で語られる物語とは、単なるフィクションや空想だけでなく、宗教や国家、企業など、人間が共有する虚構のことを指しています。


人間は、地球上で唯一、社会的ネットワークを形成する生物であり、昆虫と並んでその特性を持っています。しかし、昆虫のネットワークは固定されており、厳密な構造に従っています。一方で、人間のネットワークは常に変化し、動的です。これが人間の卓越した組織力の源泉となっているのです。


この組織力の背景には、虚構の共有があります。たとえば、エジプトのピラミッドやファイユームの湖など、驚異的な建築物が宇宙人によって作られたという説もありますが、実際には人間の卓越した組織力によって成し遂げられたものです。現代のハイテク製品も、優れた設計図があるからではなく、大人数が協力することで高い品質が実現されています。つまり、人間の社会性や組織力は、物語や虚構の共有に根ざしているのです。


動物には、自然と自分の意識という二重の現実がありますが、人間にはさらに第三の現実、すなわち神や国家、企業などの人格が存在します。これらの人格は、農業革命と産業革命を通じて出現しました。特に農業革命によって、人間は300人以上の大規模な協力が可能となり、それによって社会性を持つ動物としての進化が促されました。


しかし、この進化の過程で、人間は多くの苦しみを抱えることになりました。農業に従事する人々は、狩猟採集民に比べて身体がボロボロになることが多いのです。例えば、縄文時代の人々は現代の人々よりも健康なまま死を迎えることが多かったとされています。農業が人間に負荷をかけ、その身体を酷使する結果となっているのです。


農業は、一見すると人間が穀物を生存手段として利用しているように見えますが、逆に考えると、穀物が人間を利用して世界中に広がっているとも言えます。この視点は、現代のIT革命や人工知能の発展にも当てはまります。もともとは人間が情報を利用するために始まった技術が、いつの間にか人間がその技術に支配されるようになり、AIや情報が世界中に広がるために人間が労働を提供している状況です。


このように、人間の身体や精神が技術の発展に追いつかず、糖尿病やストレスなどの現代病が増加しています。シュメール人が文字を発明し、農業革命が進行する中で官僚制が発展し、人間はその一部として存在するに過ぎなくなりました。個々の人間の存在はアルゴリズムの実行においてはさほど重要ではなく、むしろ犠牲となることもあります。科学もまた、虚構を実現するための力を提供する手段となり、宗教と密接に絡み合っています。


19世紀の中国の農民やマンチェスターの工場労働者たちは、昔の農民よりも長時間働き、身体がボロボロになり、精神的な満足感も低くなってしまいました。これにより、道具や虚構が逆転し、人間がそれに支配されるという主従の逆転が生じています。虚構と現実、宗教と科学が混同されることで、人間は自らが作り出したものに支配される結果となっているのです。


この状況に対応するためには、霊的なものを検討するか、苦しみを減らす方法を探ることが重要です。苦しみの少ないものは虚構や物語であることを理解し、それに支配されないようにするべきです。物語や虚構に支配される人々がいるのであれば、その物語や虚構は修正されるべきであり、人間が主導権を持つべきです。


結論として、虚構と現実、物語を明確に認識することが、今後の人間社会において非常に重要であると考えられます。虚構を虚構として捉え、現実と区別することで、人間は自らの存在意義を再確認し、より良い未来を築いていくことができるのです。

0 件のコメント:

コメントを投稿