Sunday, August 24, 2025

銀幕に揺れる影―欲望と検閲の時代(1970年代初頭)

銀幕に揺れる影―欲望と検閲の時代(1970年代初頭)

1970年代初頭の日本は、高度経済成長の熱気に包まれながらも、その裏では公害問題や政治不信が顕在化し、社会の不安定さを映し出していた。そうした時代において、映画は単なる娯楽を超え、社会の矛盾や人々の欲望を映し出す場として独自の役割を担っていた。特に性表現をめぐる攻防は、文化と権力のせめぎ合いを象徴する出来事となった。

映画館では、日活ロマンポルノやピンク映画が大衆の支持を集め、地方のストリップ劇場も賑わいを見せた。観客はそこに現実からの解放や刺激を求めたが、同時に「芸術と猥褻の境界」は常に問われ続けた。警察や行政は猥褻物陳列罪を盾に摘発を繰り返し、上映禁止や修正指導が行われる一方、制作者や観客は表現の自由を主張し、検閲に抵抗した。こうした摩擦は、映画が社会規範を映す鏡であることを浮かび上がらせた。

背景には、学生運動や対抗文化の余韻が社会を覆い、権威への不信感が高まっていたことがある。性表現は単なる娯楽の枠を超え、禁じられた領域をどこまで広げられるかという挑戦であり、社会の規制と自由の境界を突き崩す試みでもあった。銀幕に映し出された欲望は、同時に権力の限界を照らし出す光でもあった。

この時代の映画と検閲の関係は、文化の拡張と統制の緊張を象徴している。観客はスクリーンを通じて夢と幻想を楽しみながら、その背後に潜む社会の不条理をも目撃していたのである。

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