欲望の扉を開く声 ― 新宿の夜を生きた証言 1990年代から2000年代
1990年代から2000年代の新宿・歌舞伎町は、バブル崩壊後の余波を引きずりながらも、夜の街だけは異様な熱気に包まれていた。昼の社会では山一證券や拓銀の破綻に象徴される金融危機、リストラや失業率の上昇が人々を押し潰していたが、その鬱屈が夜の街へと流れ込み、ネオンはますます鮮烈さを増した。借金を容易にする消費者金融の隆盛が、風俗やホスト産業を支える資金源ともなった。
スカウトマンは街を彷徨う女性に声をかけ、「アゲハを捕まえる」だの「箱を変えれば稼げる」などの隠語を駆使しながら、彼女たちを夜の世界へと誘った。彼らの会話には「ソフトからヘルスへ飛ばす」といった巧妙な仕組みが織り込まれ、ビジネスとして成立していたのである。1999年の規制強化や2003年の「歌舞伎町浄化作戦」は表の華やかさを削ぎ落とし、裏社会との結びつきを一層濃くさせていった。
一方、ホストたちは「太い姫」をつかむことを至上とし、クラブではシャンパンタワーが林立した。「あの女優が来た」といった噂話は瞬く間に広がり、伝説めいた逸話として街を駆け巡った。2000年代前半には、テレビや映画が歌舞伎町を題材にし、社会的にも「危険と魅力が同居する街」としてのイメージが固定された。2004年のコマ劇場前での抗争事件、2007年の「スカウト狩り事件」は、その緊張感を現実のものとし、街全体に重苦しい影を落とした。
こうして残されたスカウトやホストの体験談は、単なる自慢や噂ではなく、この時代の歌舞伎町の呼吸そのものである。経済の揺らぎ、規制の強化、芸能界との接点、暴力団抗争が複雑に絡み合い、一人ひとりの声に刻まれているのだ。
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