環境 夏時間は省エネの切り札となるか ― サマータイム導入試算の光と影 1999年
1990年代末、日本はエネルギー政策の転換点に立っていた。1997年の京都議定書採択によって、温室効果ガス削減が国際公約となり、省エネルギー策の模索が急務とされていた。その一環として注目されたのが「サマータイム制度」の導入である。資源エネルギー庁の試算では、全国的に導入すれば年間で原油換算86万8000キロリットルの削減が可能とされ、これは二酸化炭素削減の観点からも大きな効果を持つと考えられた。
背景には、欧米でのサマータイム導入実績があった。欧州連合ではすでに標準的に夏時間が採用され、米国でもエネルギー効率化の一策として広く行われていた。日本では戦後占領期に一度導入されたが、生活の混乱を理由に廃止された経緯があり、再導入には国民生活への影響をどう克服するかが課題となっていた。
また、省エネ効果と並んで大きな議論を呼んだのはコストである。資源エネルギー庁の試算では、全国の信号機や公共システムの改修に650億円以上の費用が必要とされた。さらに、労働時間延長による健康影響や、ITシステム改修の負担も懸念された。省エネルギー効果と導入コストのバランスをどう評価するかが、政治的・社会的な焦点となったのである。
この議論は、単に夏時間の是非にとどまらず、日本社会が「ライフスタイルの変更を伴う省エネ」をどこまで受け入れるかを問うものであった。1999年当時のサマータイム論争は、その後の再生可能エネルギー推進や働き方改革の萌芽とも重なり、エネルギーと社会制度の関わりを浮き彫りにした事例といえる。
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