Tuesday, August 19, 2025

環境 愛知県のため池保全と地域の挑戦 ― 2000年代前半の風景

環境 愛知県のため池保全と地域の挑戦 ― 2000年代前半の風景

2000年代前半、愛知県は農業基盤の要である農業用ため池の急速な消滅に直面していました。過去10年間で約600基が姿を消し、2006年時点で残されたのは約3000基。そのうち6割が市町村や地域の財産区の所有であり、管理責任の分散によって維持が難しくなっていたのです。ため池は灌漑用水の供給源であると同時に、洪水調整や生態系保全の役割を果たし、地域の原風景を支えてきました。しかし都市化の進展と農業人口の減少により、多くのため池が荒廃や埋め立てによって失われていきました。

背景には、戦後から続く農村社会の変容と都市への人口流出がありました。高度経済成長期には農地拡大と都市開発が優先され、ため池の重要性は軽視されました。さらに1990年代のバブル崩壊後、農業の採算性低下と担い手不足が深刻化し、管理の放棄が目立つようになります。しかし2000年代に入ると、地球温暖化や異常気象が現実の脅威となり、水資源確保や生態系保全の観点からため池が再評価され始めます。

愛知県はこうした状況を受け、2008年度末までに各市町村が保全計画を策定・実施する方針を示しました。これは単なるインフラ整備ではなく、地域の歴史や自然環境を踏まえた包括的な再生の試みでした。堤体の補強や水質改善のための植生導入、流域管理による土砂流入防止など、工学技術と地域の知恵を融合した取り組みが導入されました。さらに、ため池を環境教育や観光資源に活用する動きも生まれ、都市住民を巻き込んだ保全活動へと広がっていきました。

この流れは、循環型社会形成推進基本法(2000年施行)や生物多様性国家戦略改定(2003年)といった全国的政策の潮流に重なります。愛知県のため池保全は、地域資源を未来へ受け継ぐ新しい社会実験であり、水と人、農業と自然の共存を模索する象徴的な取り組みだったのです。

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