環境 炎暑の世紀を渡る都市―五十度の地図と老いる北、移動がかたちづくる世界 2019–2025年。
地球の針は速く回りはじめた。二〇二四年は観測史上最暖、産業革命前比で約一・五五度上振れとなり、翌二五年一月も"最も暖かい一月"で幕を開けた。記録の帯は連なり、例外はもはや例外でなくなる。
五十度の数字が地図の南側で常態化している。二五年五月、アラブ首長国連邦は観測史上五月として最高の五〇・四度を記録し、同月末には五一・六度に達した。熱の天井は上がり続け、屋外活動と電力、医療の設計を根底から問い直している。
雨期は外れ、畑は痩せ、川床は露出する。南部アフリカではエルニーニョに重なる長期乾燥で作物が枯れ、レソト、マラウイ、ナミビア、ザンビア、ジンバブエが相次いで非常事態を宣言した。人びとは食と水を求めて移り、都市の縁に新たな居と仕事を探す。飢餓線は国境の線より速く移動する。
海は黙って膨張している。全球平均海面の上昇速度は、一九九三年の約二・一ミリ毎年から二三年には四・五ミリへと倍加した。二四年の上昇は想定を上回り、熱の"体温"を海面が代弁した。堤防は高く、地下は浅く、塩は上へと忍び込む。
北側は涼しいが安泰ではない。先進国はかつてない高齢化に直面し、労働の担い手が減る。二〇六〇年までに、四分の一の経済圏で生産年齢人口が三割超縮む見通しだという。都市インフラを耐熱に改修するにも、担う人と財のやり繰りが問われる。
だから移住は例外ではなく、今世紀の構造である。国際移住機関の最新報告も、人の移動が開発と都市の設計を左右する現実を描き出す。受け入れる側の都市は、住宅、雇用、交通、水と冷却の網を同時に編み直す必要がある。遅れは、そのまま二次被害となって跳ね返る。
適応の作法は見えてきた。街路樹と日陰の連続体、給水と冷却のセーフルーム、白い屋根と高反射の舗装。建物は発熱を減らし、電力網はピークに備え、作業は時間割を変える。沿岸は撤退と再配置を現実策として議論し、内陸は受け皿として段階的に膨らむ。政策は、移動の正面設計と公正の担保を両輪に据えるべきだ。
結論は簡潔で重い。加速する変動のなかで、都市は熱に強く、水に賢く、人にひらかれるかどうかで命運が分かれる。五十度の地図と老いる北、上がる海と干上がる畑――それらはばらばらの出来事ではない。二〇一九年から二五年までの軌跡が示すのは、移住と適応を組み込んだ新しい都市計画こそが、もっとも現実的な"安全地帯"だという事実である。
(本文は記号の削除・句読点の整形済みです)
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