**風は国境を越えて―気候変動と人類大移動の交差点(21世紀初頭)**
「あなたはそのひとりになる可能性も、彼らを受け入れる立場になる可能性もある」。背景は21世紀初頭、特に2010年代後半から2020年代にかけて、気候危機が科学的にも社会的にも急速に可視化された時代であった。
この時期、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告は、地球温暖化を1.5℃以内に抑える必要性と、それを超えた場合に訪れる不可逆的な環境破壊を警告していた。関連イベントとして、2015年のパリ協定採択が挙げられる。これは196か国が参加し、温室効果ガス排出削減と適応策の推進を国際的に合意した画期的な枠組みであった。しかし、その後の世界では、米国の一時的な離脱(2017年)や、一部の国の履行遅れが国際協調の脆弱さを浮き彫りにした。
同時期、世界各地で気候関連の災害が頻発した。2019年から2020年にかけてのオーストラリアの大規模森林火災は生態系を壊滅させ、2020年には南アジアで記録的豪雨とサイクロンが発生、バングラデシュやインド沿岸部で数百万人規模の避難が行われた。さらに、2010年代後半にはアフリカ東部で深刻な干ばつが続き、食料不足と家畜損失が社会不安を増幅させた。これらはすべて、国際的な人口移動の引き金となった。
北半球の先進国では、こうした移住者の増加が、すでに進行していた少子高齢化と労働力不足の問題と交差した。日本、スペイン、ドイツなどでは、人口減少が確実視され、経済の持続には移民労働者の受け入れが不可欠となった。米国でもハリケーン・カトリーナ(2005年)やハリケーン・マリア(2017年)といった災害後に大規模な国内移動が発生し、気候変動が移住動向に与える影響が可視化された。
関連技術としては、地球観測衛星群によるリアルタイム気候データ取得、スーパーコンピュータによる気候シミュレーション、海面上昇・洪水予測システムが実用化され、各国政府や国際機関が移住リスク評価や避難計画策定に活用した。また、受け入れ側では、耐水・耐熱建築技術、再生可能エネルギーインフラ、AIを用いた移民配置最適化、そして移住者支援のためのスマートシティ化が進められた。
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