地中海を裂いた影―アキレ・ラウロ号事件(1985年)
1985年10月、イタリアの客船アキレ・ラウロ号がパレスチナ解放戦線の一派によってハイジャックされ、イスラエルに拘束された囚人の釈放を要求した。背景にはレバノン内戦やイラン・イラク戦争、PLO内部の分裂など冷戦期の中東情勢が複雑に絡んでいた。事件は米国人レオン・クリングホッファーが殺害される悲劇に発展し、アメリカ社会にテロへの恐怖と報復意識を植え付けた。米海軍のF14戦闘機が犯行グループを乗せたエジプト航空機を強制着陸させた「シゴネラ危機」では、アメリカとイタリアの主権をめぐる外交衝突が起こり、首謀者アブ・アッバスは逃亡を許された。事件は国家間の駆け引きと非国家勢力の台頭を象徴するものであり、武器商人モンツァー・アル・カッサルの存在が冷戦時代の二重構造を浮き彫りにした
。さらに犠牲者を題材にしたオペラ『The Death of Klinghoffer』は、芸術と倫理の関係をめぐる論争を呼び、事件の記憶を文化史にも刻んだ。
No comments:
Post a Comment