Friday, December 5, 2025

追認の誤り ブラックスワン 2025年12月

追認の誤り ブラックスワン 2025年12月
追認の誤りとは、人が自分の信じたい物語の周囲にだけ灯りをともし、都合の良い事実ばかりを拾い集めてしまう心の習性を指す。私たちは安心を求め、世界を分かりやすく把握しようとするあまり、自分の考えと整合する証拠を優先し、それに反する事実や、まだ知られていない領域を無意識に遠ざけてしまう。この傾向は一見すると理解の安定をもたらすが、実際には世界の複雑さを失わせ、予測不能な出来事への備えを弱めてしまう。
ブラックスワンの理解において、この追認の誤りは致命的である。なぜならブラックスワンとは、私たちが見ようとしなかった情報、あるいは軽視してきた例外や異常値、沈黙していた証拠の側から現れることが多いからだ。見たい世界だけを見るという態度は、そのまま見たくない危険を増幅させる。都合の良い事実を拾い集めるほど、未知の領域は膨らみ、そこに潜む破局的な跳躍が見えなくなる。
心理学では、これを確証バイアスと呼ぶ。古典的研究であるワッソンのルール推論課題では、多くの人が自分の仮説を補強する情報ばかりを試し、反証可能な情報に目を向けなかった。この行動は、政治的選好、経済予測、歴史解釈、人間関係に至るまで普遍的に見られる。
タレブが強調するのは、世界は私たちの願望とは無関係に跳躍し、歪み、突発的に変動するという点だ。だからこそ、意識的に自分の信念を弱める証拠へ目を向ける姿勢が不可欠となる。追認の誤りをわずかにでも抑えることは、ブラックスワンの影に飲み込まれずに歩むための唯一の防御となる。
追認とは、心が世界の粗さを削り落とす行為である。しかし現実はもっとざらついており、予兆のない破局が突然に訪れる。その手触りを忘れぬ姿勢こそが、不確実な世界を生き抜くための静かな智恵となる。

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