Monday, June 30, 2025

日本の海岸が危ない―海浜植物の危機(2006年9月)

日本の海岸が危ない―海浜植物の危機(2006年9月)

2006年当時、日本列島の沿岸地域では「最後の自然」とも呼ばれる海浜生態系が急速に姿を消しつつありました。高度経済成長期から続く沿岸部の埋め立て、港湾整備、護岸コンクリート化によって、砂浜や磯の自然な遷移が断ち切られたうえ、観光地としての開発が拍車をかけていました。

特に被害を受けたのが「海浜植物」と呼ばれる、砂浜や塩分を含む環境に適応した特有の植物群です。たとえば、ハマゴウ(浜栲)やハマヒルガオ(浜昼顔)は、日本各地の海岸で見られた代表的な在来種ですが、この頃には急速に分布を減らし、「絶滅危惧種」に指定される地域も出てきました。これらの植物は、単なる「美しい草花」ではなく、砂の飛散を防ぎ、風や潮に対して砂丘を安定させる働きをもつ、海岸の基礎的な生態機能の担い手です。

加えて問題となったのが、外来植物の侵入です。観賞用に持ち込まれた「ハマボウフウモドキ」や、繁殖力の強い「セイタカアワダチソウ」などが砂地に広がり、在来種を駆逐する現象が各地で確認されました。さらにレジャー客の増加も深刻で、テント設営やバーベキューなどにより、踏み荒らしが進行。「花を見に行く」観光が、結果として花を消すという逆説的な事態を生んでいたのです。

こうした背景から、2000年代半ばには自治体が海浜保護区の指定や立ち入り制限、保全ボランティア活動の導入などを模索していましたが、開発圧力や資金不足、一般市民の理解不足もあり、十分な成果を上げるには至っていませんでした。

この海浜植物の危機は、単なる植物の話にとどまらず、「沿岸域という生態系の玄関口」で何が失われつつあるのかを示す警鐘でもありました。地球温暖化による海面上昇や高潮リスクが議論され始めたこの時期、「海岸が削られる」だけでなく「生き物の住処が消えていく」という感覚が社会に広まり始めた時代でもありました。

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