アスベスト処理に低コスト技術の開発始まる(全国)―2006年9月の危機感と技術革新の交錯
2005年に兵庫県尼崎市のクボタ旧神崎工場で周辺住民に中皮腫が多発していたことが判明し、「アスベスト被害」は一気に社会問題化しました。厚生労働省や環境省、経済産業省は急遽、対策に乗り出し、「負の遺産」とも呼ばれるアスベストの処理方法を早急に確立する必要に迫られていました。そんな中で注目されたのが、高温溶融処理によるアスベスト無害化です。
1500度という極めて高温の溶融炉でアスベストを完全にガラス化・無害化する技術は、理論的には安全性が高いものでした。しかし、導入・運用コストがきわめて高く、1基あたり3億円近くかかるとされ、地方自治体や中小事業者にとって現実的な選択肢ではありませんでした。さらに、処理能力も限られており、日々大量に発生するアスベスト含有建材を十分に処理するには数が足りず、社会全体での普及には程遠い状況でした。
このような課題に対し、経済産業省は2006年度から低コスト型の処理技術の研究支援に乗り出しました。ターゲットは、化学反応や低温焼成などによってアスベストの繊維構造を破壊し、無害化する新技術の確立でした。これにより、従来の高温処理に比べて設備コストやエネルギー消費を抑えられるだけでなく、解体現場での現地処理や小型装置による移動式処理の可能性も広がると期待されていました。
また、2006年9月に施行された改正労働安全衛生法により、アスベスト含有率の規制基準が「1%以上」から「0.1%超」へと大幅に厳格化されたことも、技術開発を急がせる要因となりました。この基準変更は、アスベストの混入がごく微量でも法的に「管理対象」とされることを意味し、現場で即時に高精度の分析を行えるポータブル探知機器や迅速分析システムの開発需要も急激に高まりました。
このように2006年は、「技術的対応の遅れが健康被害を拡大させる」という認識が社会全体に広がり、アスベスト問題が単なる労災・公害の枠を超え、「社会的信頼」や「科学技術の応用力」が問われる局面に突入した年でもありました。処理技術・検出技術の両面で、民間企業や研究機関が動き出したことは、まさに技術と制度が危機に応じて同時に進化し始めた瞬間だったのです。
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