2024年8月10日土曜日

日本の炭化炉 2002年2月

はじめに:近年、ダイオキシン対策特別措置法や廃棄物処理法の改正など、廃棄物の焼却に対する規制は厳しさを増している。その一方では資源循環型社会の実現に向けた各種リサイクル法が法制化され、加えて最終処分場の逼迫により、廃棄物処理費用も高騰。廃棄物処理において焼却・埋立てから再資源化への転換が強く求められている。

それに伴い、本来ならば脱水・乾燥・焼却など中間処理の後、埋立処分されることがほとんどだった有機性廃棄物(建設廃木材、食品廃棄物、下水汚泥、家畜糞尿など)についても、単純焼却に代わる再資源化手法がニーズとして浮上してきた。そのひとつとして「炭化」がにわかに脚光を浴びつつある。

炭化炉開発の現状と方向性:炭化の代表例としては木炭の製造がある。今のところ、その製造については、伝統的な炭焼き技術(築窯やプロック炉など)と、工業的な大量生産を目的とした平炉、スクリュー炉、ロータリーキルン、流動炉などが用いられている。しかし、間伐材や製材所廃材など性状のはっきりしているものについてはダイオキシン対策などの必要性が低<従来技術で対応できるものの、廃棄物焼却処理の代替、再資源化装置として炭化装置を捉えた場合、ダイオキシン問題は避けては通れない。

リサイクルを目的とした炭化装置に求められているのは、いかにダイオキシンを発生させずに、低コストで、良質な炭化物を得るかということに集約されている。つまり炉を密閉し無酸素(あるいは低酸素)にすることでダイオキシンの生成を抑制しつつ高温で蒸し焼きが可能で、なおかつ、均質に炭化が進むように内容物を撹拌できることが求められている。

この条件を満たす炭化装置として現状で評価が比較的高いのがロータリーキルンを応用したものだ。ロータリーキルン式は、回転する円筒形の炉に原料を入れ、内熱または外熱で炭化させる方式だ。ロータリーキルン式焼却炉の欠点として、残演(炭化物)をストーカで完全に灰になるまで後燃焼させる必要があった。炭化ではそれが逆に長所となる。

その他、・炭化装置として有望な理由は、①有機分を含んだものであれば何でも炭化が可能で、原料に含まれる有機分を可燃性の乾留ガスにし、このガスから炭化に必要な熱を得るため燃料も節約できる。②炉内に機械的な部分がない単純構造なので故障も少ない。

③炉の密閉に高度なシール技術が要求されるものの、ダイオキシン除去装置やストーカが不要になるため、設置スペースや装置価格の面でも優れ、次世代型焼却炉として自治体などが検討しているガス化溶融炉がトン当たり5000万円程度といわれているのに対し2~3分の1程度の費用で導入できる。

④原料はキルンの回転により切り返されるため焼きムラがないなどが挙げられる。基礎技術がすでに確立されている分野だけに炭化装置には大手機械メーカーから中小・ベンチャーまで数多く参入し、日量10OOキログラム程度から数十トンまで大小さまざまな規模の装置が開発されている。各種有機性廃棄物ごとに炭化処理の事例やそれぞれに用いられている炭化炉、市場性などを見てみる。

炭市場の拡大、有機性:廃棄物の新用途開発の両面から脚光炭化が注目される大きな理由のひとつが、炭の用途の広がりだ。各種リサイクル事業において、生成物の流通で苦労するケースも多い中、炭化物は比較的見通しが明るい。昭和10年代には年間270万トン余り生産され、石炭とともに主要燃料として利用されてきた木炭も、次第に減産の一途。

しかし、近年においては燃料以外の新しい需要が生まれ、生産量の増加が見られる。現在、燃料用途以外での国内で販売される木炭は年間5万835 トン(99年実績)。

その理由として、炭の持つマテリアルとしての優れた機能性、すなわち表面にある無数の微細孔により大気中や水中の臭気物質や水中の汚濁物質などを吸着する能力や、士壌微生物の繁殖や通気性、透水性の改善といった土壌改良の能力などが評価(1984年制定の地力増進法で土壌改良材に指定)され、最近では、シックハウス症候群の要因とされるトルエン、キシレン、ホルムアルデヒドといった揮発性有機化合物の吸着効果も立証されているなどがある。

それに伴い、間伐材や剪定枝、製材所で発生する端材や鋸くずなど木質系廃棄物の炭利用は拡大傾向にある。そうした炭化物は従来の木炭製品の代替として広範、かつ高付加価値利用が期待されている。たとえば飲料水用や寝具・枕用、防臭剤、風呂用などのほか、土壌改良剤、住宅用の調湿材(床下の湿度を調整しカピやシロアリの繁殖を防止)が注目される。

また、ダイオキシン類の吸着や産業用水の浄化、溶剤回収などより高度な分野に用いられる活性炭としても有望視される。活性炭とは、炭化物と酸化ガスを高温で反応(ガス賦活法)させたり、未炭化原料に脱水・酸化作用のある薬品を含浸させ無酸素状態で炭化反応(薬品賦活法)させることで多孔性を高めたもの。

一般的に1グラム当たりの表面積が800メートル未満のものを木炭、それ以上のものを活性炭と区別しているが、高温(800度C以上)で焼成された炭化物の中には同等の表面積を持つものもあり、リサイクル生成物としてより高付加価値が得られる。そうした木質系廃棄物の炭化の取り組みが進む一方、生ごみを始めとした有機性廃棄物でも、炭原料としての用途開発も進み始めている。有機性廃棄物の再資源化の現状は、コンボスト化やスラグにした後、再商品化が主流。

しかしながら、コンポスト化では今後、生成品の供給過剰が予想され、また焼却売や溶融灰(スラグ)は路盤材や建設骨材など用途が限定されるなど課題を抱えるという背景があり、新たな用途として炭に注目が集まっている。ちなみに廃棄物を原料とした炭の価格は現状で、クコーヒーカス炭(土壌改良剤用) kg当たり30円、おから炭(肥料用)kg当たり80 円、タイヤ炭(脱臭剤用)kg当たり30 円といった相場で流通されている。

建設廃木材:木炭本来の原料に最も近いうえ、リサイクル用途が未開拓ということもあり、炭化処理市場で最もビジネスチャンスが大きい分野といえるのが建設廃木材だ。とくに2002 年5 月に建設資材リサイクル法が完全施行されることは追い風となる。

国土交通省の「建設副産物の再資源化状況実態調査2000年度」の結果によると、アスコン塊やコンクリート塊は再生骨材や道路の路盤材などへの再利用が進み、それぞれ98% (95 年度85%) 、96% (同65%) と大幅にアップしたものの、木材については38% (同40%) に悪化している。これまで建設発生木材利用の主力となっていた燃料チップの需要が、木くずポイラーの老朽化や相次ぐ銭湯の廃業などが理由で減少。

リサイクルチップはだぶつき、製紙、ポード用のチップは軒並み値を下げ、燃料用に至っては、運賃を支払って現場に運び込んでもらうという、いわゆる逆有債というケースも増えており、用途開発が急務となっている。

建設リサイクル法では、木材については工事現場から一定の範囲内(25キロメートル)に再資源化施設がないなどコストが過大にかかる場合のみ特例として縮減(焼却による減蓋)も認められている。しかし、単に燃やすだけであれば資源としての付加価値はゼロ。焼却に対する社会的な向かい風も考え合わせれば、再資源化によるコストメリットも併せ、長期的には再資源化へと向かうものと予想される。

いち早く、同分野で事業展開を図っているのが埼玉県熊谷市の熊谷カーポン。同社は産廃の収集運搬、処分業の許可を持つ亀井産業のグループ会社として、需要が低迷していた木くずチップの炭化事業会社として98年10 月に設立された。

別法人としたのは、産廃処理業者である亀井産業で炭化を行なうと、現行法では焼却処理に該当し、できた炭化物も「もえがら」という分類になり商品として販売できないため。そこで亀井産業がチップ化までを行ない、それを有価物として販売、熊谷カーボンが原料として購入、加工する工場として位置付けた。

同社の炭化処理システムはまず、チップ化の工程で、塗装やシロアリ防止剤、防腐処理されたものを取り除く。炭化物が土壌改良材などに使われた場合にそれらが溶出する可能性があるためだ。こうして選ばれた廃木材を破砕機でチップ化。ふるいや磁選機、金属探知器で塗料片や金属類を徹底的に除去してようやく原料チップができる。

同社が採用している炭化装置は暁技研と千代田エンジニアリングが共同開発した反復揺動式と呼ばれるもの。基本的にはロータリーキルン式と同じく低酸素状態で乾留ガス化するが、炉を回転ではなくゆりかごのように揺動させる。それによって炭を均ーかつ、細かく形くずれしないよう工夫している。原料投入の際に着火剤としてわずかな燃料(灯油かA重油)を使うだけで、後は原料の自燃だけで1000度C以上の高温で約40分間蒸し焼きされる。

炭化時に出る乾留ガスは炭化には利用せず、乾留ガス焼成炉で空気と混合し再燃焼させる。この排ガスも1000度C以上あり含水率が高い原料を使う場合は乾燥に使用する。それでも大呈の熱が余るため、他の装置の熱源に利用することも可能である。1時問当たり2500キログラムのチップから2000リットルの木炭を生産。土壌改良材や融雪材などとして出荷しているほか、自社で袋詰めした床下調湿材「すこやかもっくん」並びに土壌改良材「彩(いろどり)」も商品化している。

都市ごみ:年間約5100万トン排出される一般廃棄物。最近では自治体による分別回収の拡大により、リサイクルされる割合も増えてきているものの、それでも約3900万トンを直接焼却に頼っているのが現状だ。そうした中、焼却炉の更新に伴いダイオキシン対策の強化を求められる自治体では新たに炭化炉の導入を検討する動きも出てきている。

さまざまな物質が混入する可能性があり、しかも一度に大量に発生する都市ごみだけに生成物の用途は燃料もしくはセメントキ)レン、製鉄の原燃料などサーマルリサイクルの延長に限られる。だが、いったん炭化することで燃料としての質を上げ、高付加価値を得るのが狙いだ。全国で初めて都市ごみリサイクル方法として炭化炉の導入を決めた糸魚川地域広域行政組合(新潟県糸魚川市)では、日立製作所が仏・ティド社から技術導入した炭化炉を採用した。

ごみに含まれる金属分は回収し、残りの有機分を炭化するもので、処理能力は24時間連続運転で70 トン/日で今年3 月に完成を予定している。ここで得られる炭化物は1 キログラム当たりの熱星が4000から5000キロカロリーと高いことから、石炭の代替燃料として使う計画だ。栗本鉄工所も岐阜県恵那市から炭化装置付きごみ固形燃料(RDF)化設備を受注。

可燃性の一般廃棄物を乾燥、RDF化した後、乾留して炭化するもので同じく燃料用途を考えている。都市ごみ焼却熱で蒸気ターピンを回すごみ発電に利用すれば、ごみを直接燃やす場合に比ベエネルギー回収効率が2倍以上もアップする計算になる。そう考えるとエネルギーとしての再資源化もひとつの道となる。

下水汚泥:日本の下水道普及率は2000年末で62%。下水処理場で発生する下水汚泥は全国で約186万トン(汚泥発生時乾燥重量ベース)。含水率が75から80%と高く腐食しやすいためリサイクルが難しいとされる下水汚泥は、セメントや溶融固化物の建設資材への利用が進み、緑農地還元と合わせて再資源化率は57%、その他エネルギー利用などでも3%が有効利用されている。

しかし、より付加価値の高い利用を目指し、炭化プラントを導入するケースも実際のところ増えてきている。滋賀県の琵琶湖湖南中部浄化センター(滋賀県草津市)では、下水汚泥の炭化施設を2001年4月より稼動させている。大同特殊鋼が下水道事業団とともに開発した「乾留ガス吹出管付き外燃式ロータリーキルン」という装置で、汚泥ホッパー、乾燥機・炭化炉、炭化汚泥貯蔵蓄搬送設備までの一連のシステムだ。

脱水汚泥を1日20トン処理し、約1.7トンの炭化物を製造。炭化物は脱水助剤や脱臭材として同センター内で有効利用しているほか、土壌改良材、謙雪材などとして周辺地域に還元されている。

食品廃棄物:2001年4月に施行された「食品リサイクル法」により、食品廃棄物を年間100 トン以上排出する食品関連事業者は、2006年までに発生抑制や減縁、リサイクルなどの手法により排出量の20%を削減することが義務づけられた。国内で排出される食品廃棄物は年間1940万トン(96年厚生省調査)。うち、法の対象となるのは食品製造業から生じる産業廃棄物340がトン、食品流通、外食産業などから生じる事業系廃棄物600万トンの計940万トン。

これら事業系の食品廃棄物のリサイクル率は現状で165万トン(17%) に過ぎず、残りの775 万トンは焼却・埋立処分されていることからリサイクル率の向上が早急の課題である。しかし、食品流通や外食産業などからは支出される食品廃棄物は、肥料・飼料にするにしても量の割に有効成分が少ないため、二次加工の工程を踏む必要がある。

また、食品加工・調理段階で混入される塩分はコンポスト化することで濃縮されてしまり。塩害による弊害も指摘されており肥料・飼料としての商品価値は低くなる可能性がある。一方、ビール業界を筆頭に大量の有機性廃棄物を発生する大企業では工場のゼロエミッション化の一環として、再商品化やメタン発酵によるバイオマスエネルギーとしての利用が進められている。

ただし、多くの食品製造業界は原料の産地である農村・漁村地域に集中しており、それらは中堅中小企業が担っている。排出量も限られ、経済的にもあまり大がかりな装置を導入することができないこれらの事業者にとって、小型炭化装置が選択肢のひとつとして考えられる。炭化においても懸念される塩分残留については、ヤスハラケミカル(広島県府中市)とヴィド(東京都新宿区)は、柑橘類から抽出したリモネンを前処理に使うことで解決した。リモネンには塩分や油分を溶かして除去するという性質がある。

両社が共同開発した「V-BOX Jは、まず食品廃棄物にリモネンを重最比1 %添加し、50度Cで24時間撹拌した後に脱水すると、塩分や油分が抜け体積ももとの10 %程度にまで減容化される。これを300~400度Cで蒸し焼きにすると活性炭が得られる。兵庫県淡路島のタマネギ栽培農家に100台を納入し、加工時に出るへたや皮などの処理に使用され、活性炭は不織布に混ぜて屋上緑化の培地に利用する計画だ。

家畜排泄物:動物のふん尿(家畜排泄物)は年間9152 万トンが発生しており、96 %が堆肥などとしてリサイクルされ、そのまま最終処分されているのは1%だといわれている。しかし、堆肥化施設へ運び込むまでの間の管理がずさんであったり、堆肥盤(コンクリート床の上で自然発酵させる)のような臭気対策や環境中への漏出対策が適切ではない施設も多く、硝酸性窒素による河川や地下水の水質汚染を引き起こしているケースも。

こうした現状を受け、「家畜排泄物法」では、2004年11 月以降、畜産農家に家畜排泄物の適正な処理・保管が義務づけられ、個人経営の小規模畜産農家の大半(牛10頭、豚100頭、鶏2000羽、馬ID頭以上)も適用を受けることになっている。北海道のある養賤場の場合、通常、鶏糞は肥料として用されることが多いが、そこでは焼却炉で自家焼却していた。

しかし、ダイオキシン問題から更新が難しくなったため炭化装置の導入を決定。鶏糞100キロに対し、粒状炭が30キロできた。分析したところ、農作物の生育に必要な3 大要素、窒素、リン酸、カリが含まれており、これを鶏糞に混ぜて付加価値を高めた肥料を販売し、その売り上げを鳥のエサとなる穀物生産に回すという循環システムができあがっている。

まとめ:含水率が高く廃棄処分するだけでも一苦労だった食品廃棄物や汚泥、家畜排泄物にとっては、投入した廃棄物を5から20 分の1 (重量比)にできる炭化処理は、単に減量装置としてだけ見ても導入メリットはある。また、生成品の炭自体がコンポストや溶融スラグなどに比較して商品価値が高く、リサイクル事業として成立しやすいことも導入の追い風となる。

ただし、現状で木炭の生産皇は5万トンあまり。それらの半数を有機性廃棄物を原料とした炭に代替可能としても、処理黛は微々たるものに過ぎない。さらなる用途開発がされない限り、コンポストなどと同様、供給過剰になるのは必至。しかし幸いなことに、シツクハウス問題を背景とした床下、壁材など建材への利用、法面や広がる緑化事業、ガーデニングなどへの利用も進み始めており、まだまだ需要拡大が見込まれる。

さらに今後、炭化炉はより具体的に、各種有機性廃棄物がどのように回収されているか、それに伴う廃棄物の性状、生成物の用途に合わせた性能が求められる。それにより炭化炉は、確かに廃棄物を処理するものではあるが、これまでのオールマイティーな焼却炉の延長上ではなく、むしろ炭を生成するための工業的な「焼成炉」として位置付けられることで、市場は拡大するものと思われる。

0 件のコメント:

コメントを投稿