2024年8月8日木曜日

いまだ不法投棄絶えない医療廃棄物-2003年2月

いまだ不法投棄絶えない医療廃棄物-2003年2月

院内感染や処理業者の感染などの事故多発などを背景に1992年7月、医療廃棄物の中でもとくに感染性の高いものが特別管理廃棄物である「感染性廃棄物」に指定された。対象となったのは血液の付着したガーゼ・注射針、メス、試験管、シャーレ、おむつ、手術用手袋、透析器具、病理組織、検査に使用した培地などだ。感染性の低い点滴瓶、バイアル瓶、消毒処理済の注射針やプラスチック瓶、焼却処理済みの残灰、レントゲン定着液、現像廃液などは通常の医療廃棄物(非感染性廃棄物)として産廃もしくは一廃扱いだ。また、感染性廃棄物の指定と同時に、処理業者の新規許可申請、マニフェストの義務付けなどがされた。厚生省(当時)の調査によると医療機関からの感染性廃棄物排出量は98年度で15万トンに上る。感染性廃棄物収集運搬許可業者が約6000社、焼却、滅菌などの処理業者が400社あるという。

感染性廃棄物の処理は院内での自己処理が原則となっている。医療廃棄物ガイドラインでは、焼却、溶融、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)装置による滅菌、乾熱滅菌装置による滅菌、煮沸、消毒などの方法が挙げられている。この中で最もポピュラーなのが焼却だ。92年の感染廃棄物指定を機に、医療機関では焼却炉が急速に導入された。しかし近年、周辺住民の焼却処理に対する反対などで、院内での焼却炉運転は難しくなってきた。現在ではほとんどの医療機関が外部委託へとシフトしている。国立環境研究所が2002年に9000カ所の病院を対象に実施した調査によると、感染性廃棄物は院内処理が10%未満とみられ、外部委託が70%程度とされる。また、非感染性廃棄物では、院内処理が11%、自治体処理が44%、外部委託が95%(複数回答)となっている。

だが、これまで、感染性廃棄物の不適正な処理や不法投棄は絶えなかった。最近でも、02年夏に青森・岩手県境で国内最大規模の不法投棄事件が発覚した。不法投棄された産廃は、香川県・豊島事件(50万立方メートル)を大幅に上回る約82万立方メートル。マニフェストをもとに排出業者を洗い出したところ、2600の排出業者のうち、医療機関が355と最も多かった。ほとんどが首都圏の事業者で、国公立・大学病院が軒並み名を連ねているという。

感染性廃棄物1 kgの適正処理には焼却の場合、最低でも焼却費用に100円、専用の密閉容器を含めた運搬費用に150200円がかかるといわれる。しかし92年の感染性廃棄物指定以降、処理業者の新規参入が相次ぎ競争が激化し、業者間でダンピング合戦が行なわれた。近年まで、通常の産業廃棄物処理費用20円/kgに若干色をつけた5060円/kgという価格が横行していた。とても適正処理できるとは考えられない価格だ。

適正処理に向けた動きが活発化

こうした適正な処理費用が負担されない状況から、これまで、感染性廃棄物処理関連市場も健全に育成されてこなかった。しかし状況は変わりつつある。全国産業廃棄物連合会は96年から、処理業者が適正処理チェックリストに基づき自己チェックし、その結果を公表していく「適正処理プログラム」を開始した。また、廃棄物処理法改正で排出者責任が強化されたのにあわせ、東京都医師会では「医療廃棄物相談窓口」を設置し、医療機関の特別管理産業廃棄物管理責任者向けの教育・研修会をスタートさせたほか、日医総研(http://www.jmari.med.or.jp/)でも「日医総研認定・感染性廃棄物安全処理推進者養成講座」を03年3月から開始する。

また日本産業廃棄物処理振興センターでは96年から感染性廃棄物処理に使われる収集・運搬容器に関して、正しい処理ができる容器であることを認定する制度を始めている。02年12月現在、プラ容器として天昇電気工業(ミッペール)、出光プラスチック(メディペール)、アサヒプリテック(ディスポーザルBOX)、岐阜プラスチック(リスペール)、コダマ樹脂工業(メディカルボックス)、紙容器として日下工業(メルコンクリーン)、新潟紙器工業(セラカプセル)の容器が登録されている。プラ製20リットル容器で約3000円と若干高額なため、まだ本格普及には至っていないが、適正処理には欠かせない消耗品であり、各社とも徐々に導入が増えているという。富士システムパックグループでは「ミッペール会」を発足し、全国の関係処理業者50社を中心に情報交換を兼ねた勉強会を開催しているほか、出光グループでは医療廃棄物情報誌「メディまる」を発刊するなど普及に向けた動きを加速している。

焼却に代わる新たな処理技術

適正な処理価格に落ち着けば、処理費用だけで450億円程度が見込まれる。それに伴い中間処理事業のほか、処理装置や運搬・回収容器などでも事業展望が開けてくる。高齢化が進んでいることで老人保健施設や老人ホーム、在宅医療など一般家庭からの排出も増加しており、市場規模はさらに拡大が予想される。

中間処理事業では、麻生鉱山(福岡県)が02年1月から北九州市エコタウンで、医療廃棄物再生工場「エコノベイト響」による試験操業を開始している。敷地面積8500平方メートルに破砕機・高周波加熱滅菌装置、選別機、固形燃料製造機、成型機などを備え、処理能力は1日当たり24トン。契約した医療機関から年間5000トンを超える医療廃棄物を回収し、破砕・滅菌した後、素材ごとに選別する。マテリアルリサイクルできるプラスチックは工場内で収集容器に再生し、契約先の病院で利用する。その他の素材は工場内で固形燃料にして麻生グループのセメント工場で利用。鉄やガラス分も、セメント原料として利用している。

一方、処理装置は、適正処理を進める処理業者だけでなく、処理費用が適正価格へと近づく、つまりは値上げされると自己処理によるコストメリットが出てくる医療機関でも再度導入機運が高まると思われる。そうした中で、これまで主流だった焼却ではなく炭化、溶融、滅菌などの機能を持つ装置の市場投入が盛んになりつつある。02年12月のダイオキシン規制強化で処理業者、あるいは院内での既存の焼却施設運転が難しくなったことで、こうした新しい処理方法が注目を集め始めている。

前川製作所は感染性廃棄物を対象にしたバッチ式炭化炉「環境神」を02年夏から本格販売している。700度Cの高温下で炭化するもので、容積を40分の1に圧縮する。処理規模別に炭化室容積500リットル、1000リットル、1500リットルをラインアップし、価格は500リットルタイプで3500万円。炭化物を通常廃、あるいは産廃として引き渡せることによるコスト削減や、従来の焼却型の装置とほぼ同等のサイズなどをアピールして、群馬県の富岡総合病院などで導入されている。

溶融方式では、小池酸素工業がV字状アークプラズマを使った溶融固化システム「DOMIWS」を02年に実用化し、本格販売を開始している。感染性廃棄物を容器ごと投入し、一次、二次、三次の燻蒸室で殺菌を行なった後、溶融炉内にアークプラズマを発射して溶融する。炉内は1600度Cに達し、注射針、缶などの金属類、樹脂類、ゴム類、ガラス類、紙・布類などあらゆる感染性廃棄物が溶融され、スラグ排出とともに固化する。投入した廃棄物の体積を97%圧縮でき、処理コストは250円/kg。装置価格は1日処理能力250kgで6000万円程度と若干高めだが、減容率の高さと他方式に比べ装置をコンパクト化できることなどの点が評価され、すでに医療機関から70件以上の照会があるという。2003年度に24台の販売を目指している。

また、処理装置の中で有望視されているのが滅菌タイプのものだ。減容率では焼却に劣るものの、焼却による有害物質の発生が抑制できるのが最大のメリット。特に米国では、焼却処理が技術的に可能でありながらも、周辺住民の反対などで代替技術の開発が活発化しており、その代表格が滅菌技術となっている。

このタイプでトップシェアの日本化鉱(横浜市港北区)の「トラッシュバスターズ」(乾熱滅菌方式)は、注射器や輸液バッグ、チューブ、脱脂綿などをトレーに乗せて投入、破砕機により6~30mm角以下まで破砕し、同時に熱循環二重釜構造のミキサーで触媒粉と一緒に攪拌することで180℃以上の熱を発し、6分程度で完全滅菌、乾燥処理する。最終排出量を5分の1以下に減容化できるほか、感染性廃棄物ではなく通常廃あるいは産廃となり、大幅な処理委託費用削減に結びつく。92年の発売以来、これまで約40台の納入実績があり、これから本格的な伸びが期待される。

このほか滅菌装置では、日立メディコの子会社、日立メディエコシステムズ(茨城県潮来市)や、医療機器製造のアイバッグ(福島市)なども02年に入って新たに装置を市場投入している。

それぞれダイオキシン規制への適合はもちろんのこと、減容化率、装置のコンパクト化、価格などを特長としているが、感染性廃棄物を通常廃、あるいは産廃として排出できるよう中間処理できることが最大のウリとなっている。ここ数年、医療機関では外部委託が一般化していたが、処理費用が適正処理価格に近づいていることで院内処理のほうが長期的にはコストを抑えられること(通常の廃棄物化、減容による運搬費削減)、排出者責任が強化されるなかで院内処理した方が安全であるという認識が広がってきている。

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