Wednesday, March 19, 2025

建物の屋根は、直射日光にさらされるため、思った以上に表面温度が上昇します。

建物の屋根は、直射日光にさらされるため、思った以上に表面温度が上昇します。
夏場には70〜80°Cにもなり、建物内部の冷房効率を低下させ、エネルギー消費量も増やす原因となります。
また、大都市部ではヒートアイランド現象の発生要因ともなっています。
こうした問題を改善する手段として屋上緑化が注目されていますが、防水対策や建物の強度の問題から、改修工事を必要とする場合も多いです。
そこで登場したのが高遮熱性塗料です。
長島特殊塗料は1997年に高遮熱性塗料の生産・販売を開始して以来、改正省エネ法により省エネが求められている事業所・工場から一般住宅の屋根材用まで着実に実績を重ねています。
これまでの事業展開に沿って高遮熱性塗料を開発し、建物内部の温度が上昇する要因は、外気温の影響よりも太陽光で熱された屋根や外壁の表面温度が室内に伝わる方が大きいとされています。
高遮熱性塗料は、塗料中に無機セラミックなどを配合したもので、熱や赤外線領域の波長を効率的に遮蔽し、屋根や外壁の熱蓄積を防ぎます。
米国のサーモシールド社が1984年に初めて商品化し、日本でも1990年代中ごろから輸入を中心に販売されてきました。
長島特殊塗料は、この米・サーモシールド社と1996年に提携し、独自の高遮熱性塗料を開発しました。
同社は創業以来、一貫して耐ガソリン性ウレタン塗料やゴム・皮革用塗料、夜光塗料、UW塗料など工業用特殊塗料を製造してきました。
「塗装物の品質を向上させ、塗料自体の環境負荷も少なく、かつ生産性を損なわない塗料を開発する」というのが同社のモットーです。
同社取締役機能塗料事業部長である深江典之さんは、「マイクロメートルという単位の中でいかにして多様な機能を持たせるかがテーマです」と述べています。
優れた遮熱効果とコスト競争力を併せ持つミラクールは、直径20〜100ミクロンで中心がほぼ真空の球形セラミック粒(珪素系中空セラミックバルーン)を、乾燥塗膜中に体積比で40〜60%配合したものです。
配合と聞こえは簡単ですが、セラミック粒の比重は0.2と軽いため、乾燥前の塗料中や乾燥後の塗膜中に均一に分散させる特殊技術を要します。
同社のノウハウによって、荷姿や作業性は一般の塗料と変わらない製品が実現しました。
特殊な塗装機器なども必要とせず、塗装工事で最も経費のかかる施工費は一般塗料と同じです。
また、遮熱というと、太陽光を反射すれば温度上昇は抑えられると考えがちですが、実際は長放射率(吸収した熱を外に放出する割合)や熱伝導も大きく関係します。
例えば屋根材などに使われているアルミ材は、反射率こそ90%と高いものの、長放射率は10%にとどまります。
つまり反射できない10%の熱がどんどん蓄積されてしまいます。
ミラクールの場合、反射率は色により異なりますが、例えば基本色である白であればアルミ並みの90%で、長波放射率も94%と高いです。
セラミックを混入したことで、表面に細かい凸凹ができる分、表面積が広くなり、熱の放出量が増えます。
また、セラミックを中空とすることで室内への熱伝導も抑えられます。
この反射・放射・伝導の3つの効果を組み合わせたことが高遮熱性のミソです。
ライフサイクルで比較すれば、一般の塗料と比べてコスト競争力もあります。
現在、ミラクールは耐候性塗料としてシリコン樹脂を使った「ミラクールS100」と、さらに耐候性を高められるフッ素樹脂を使った「ミラクールF200」があります。
価格は「ミラクールS100」で一般のシリコン樹脂系塗料の1.5倍、「ミラクールF200」で一般のフッ素樹脂系塗料の1.2倍と、塗料自体の価格はやはり高めです。
しかし、施工コストは一般塗料と同様ですし、省エネによるコスト削減も見込めます。
また、反射や放熱により熱収縮に伴う塗膜の劣化が少ない分、耐候性が通常の耐候性塗料よりも高いという長寿命もウリのひとつです。
東南アジア市場への展開にも期待されており、すでに約250件の導入実績があります。
今のところ建物内の作業環境の改善や保管物資の品質保持などを目的とした倉庫の屋根への需要が中心です。
ミラクールの年間生産量は約500トンで、年率1.5倍のペースで増えています。
いくつも工場を持っている企業の場合、ためしに1カ所やってみて、高い効果が得られたことから他の工場にも施工するというケースが増えています。
倉庫を薬品保管用に改修することにしたある工場では、室温が30°C以上にならないようエアコンの導入を検討していました。
しかし、高遮熱性塗料を施工することでエアコンの導入台数を当初予定よりも半減できたという報告もあります。
その結果、エアコンの購入費やランニングコストが削減されただけでなく、消費電力の増加に伴う受電装置の増設も不要になるなど、コストメリットが得られました。
また、最近では日本国内にとどまらず、マレーシアやタイなど東南アジアの日系企業工場でも採用が進み始めています。
年間を通じて直射日光が強く、また物価に比べて電気代が高いため、日本よりもさらにメリットは高いです。
一般住宅やマンションでの施工事例はまだ少ないですが、副次的な効果として、ベランダの床部分に塗付することで、反射する光を室内に取り込み、窓際の照明を少なくすることも可能だと言われています。
さらに、広がる用途採用実績の中には、バスや新幹線ののぞみ号の屋根塗装といった面白いケースもありますが、その他にもまだまだ用途の広がりが期待されています。
「注目している用途のひとつとしてガスタンクがあります」と深江さんは述べています。
ガスタンクは温度上昇による熱収縮で接合部に亀裂が生じる恐れがあることから、二重構造になっており、内部に大量の断熱材が使われています。
高遮熱性塗料により、亀裂のリスクを低減させ、断熱材の使用量を減らすことが可能になるかもしれません。
同様の原理で、燃料油や化学物質の貯蔵タンクなどでの採用にも期待されています。
自販機を想定した冷蔵庫に高遮熱性塗料を使った実験では、1時間平均で冷蔵負荷の10%を低減できたという報告もあります。
飲料自販機は日本全国に約260万台設置されており、魅力的なマーケットです。
こうした用途の広がりを含め、今後も、対象範囲が広がった省エネ法への対応や、ISO14001取得企業で頭を悩ませつつある継続的改善の要素として、需要が拡大していくことは間違いありません。
屋上緑化と比べて視覚的効果はないものの、応用の幅は広いです。

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