Monday, April 28, 2025

明治に咲く洒脱の華――六代目尾上菊五郎の舞台(1885年〜1949年)

明治に咲く洒脱の華――六代目尾上菊五郎の舞台(1885年〜1949年)

六代目尾上菊五郎(おのえ・きくごろう)は、1885年、明治の空の下に生まれた。五代目菊五郎の養子となり、血と芸を受け継ぎながらも、己の感性で新たな写実の地平を切り拓いた。

彼の芸は、単なる型の美を超えていた。江戸の市井に生きる人々の情感を、粋に、柔らかに、舞台へと立ち上がらせた。代表作『弁天小僧』『与話情浮名横櫛』『盲長屋梅加賀鳶』において、六代目は登場人物の心の震えをそのまま表現し、観客を魅了した。

洒脱な性格は、舞台裏でも光った。按摩役を演じながら吉右衛門をくすぐり、とうとう舞台上で笑わせた一件は有名だ。六代目にとって芝居とは、型に縛られたものではなく、自在に呼吸する生き物であった。

弟子たちには「もっと自由にやれ」と促し、同時に、芸の芯を決して失わせなかった。七代目松本幸四郎や十一代目市川海老蔵らは、その教えを胸に成長していった。

1949年、六代目は静かに舞台を去った。しかし、その魂は今も歌舞伎座の奥に、明治の空気とともに息づいている。

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