MITにおけるGaydar研究と、技術と世界のLGBTQ+権利状況

MITにおけるGaydar研究と、技術と世界のLGBTQ+権利状況

MITで「Gaydar（ゲイダー）」に関連する重要な研究は、2009年にCarter Jernigan氏とBehram F.T. Mistree氏によって行われました。この研究では、MITのFacebookネットワークから収集した4,080のプロフィールを分析し、ユーザーの友人関係の構成から、その人物の性的指向を予測する方法を提案しました。具体的には、あるユーザーの友人の中にゲイであると自己認識している男性が多い場合、そのユーザー自身もゲイである可能性が高い、という傾向が示されました。

彼らはロジスティック回帰モデルを用いて、友人リストのデータだけからユーザーの性的指向をかなりの精度で推測できることを示し、これにより「オンライン上の個人情報は、本人が公開していない属性まで暴露されうる」という重大なプライバシー問題が提起されました。つまり、個人が自ら明示しなくても、周囲の情報の構造だけでセンシティブな属性が読み取られるリスクがあるのです。

また、2017年にはスタンフォード大学のMichal KosinskiとYilun Wangによる研究も話題となりました。彼らは、ディープラーニングを使って顔写真から性的指向を予測する実験を行い、男性では81%、女性では74%の精度でゲイかストレートかを判別できたと報告しています。この研究は技術的な注目を集めた一方で、倫理面から強い批判も呼び起こしました。

MITメディアラボでは、さらにAIを活用してLGBTQIA+の擁護活動を支援する「AI Comes Out of the Closet」プロジェクトも進められています。AIによる対話や仮想キャラクターを用いて、擁護活動に必要な社会的スキルを安全な環境下で練習できる仕組みを構築しようとしています。

こうした技術的進展は、個人のプライバシーや倫理の問題をますます複雑にしています。特に、性的指向が一部の国では重大な迫害の対象になることを考えると、技術の慎重な運用が求められます。

事実、イギリスの『ガーディアン』紙が2013年に報じたように、当時、世界の約40%の国々で同性愛が違法とされていました。特に英連邦諸国では53か国中41か国で同性愛が犯罪とされており、こうした法律の多くは植民地時代の英国法の名残です。また、法律上は同性愛が禁止されていなくても、社会的な偏見や暴力が深刻な問題となっている国もあります。

たとえば、ジャマイカでは17歳のドウェイン・ジョーンズさんが「クロスドレッシング」を理由に暴徒に襲われ、命を落とすという痛ましい事件が報告されています。ここでいう「クロスドレッシング」とは、社会的に定められた性別とは異なる性別の服装をする行為を指します。たとえば、男性が女性の服装をしたり、女性が男性の服装をすることを指し、自己表現の一形態でもあります。しかし一部の社会では、こうした表現が激しい偏見や暴力の対象とされることがあるのです。

このように、技術が個人のセンシティブな情報を推測できるようになった時代においては、単なる技術的好奇心では済まされない重大なリスクが伴います。性的指向が違法である、あるいは重大な社会的リスクを伴う国や地域において、本人の意図に反して属性が推測されることは、命に関わる危険を生み出しかねません。

MITの「Gaydar」研究は、技術、プライバシー、倫理、そして世界の人権状況がいかに複雑に交差しているかを鮮やかに浮かび上がらせました。これらの課題に対処するためには、技術者、政策立案者、市民社会が連携し、倫理と人権を基盤に据えた包括的なアプローチが求められています。