炭素の彼方より――与那国島に届く大陸の息吹(2020年代)
与那国島。中国大陸からわずか百十一キロメートルに位置するこの島は、冬季、東アジアの季節風を受けて大陸からの空気を吸い込む。そこには、中国で燃やされた石炭が発する二酸化炭素が含まれている。2020年代、与那国島や波照間島の空を測る観測機器は、遠く大陸で起きた出来事を鋭敏に映し出す。
2020年、新型コロナウイルスの拡大による中国全土のロックダウンは、一時的に産業活動を止め、排出量を三割以上も減少させた。しかし経済再開とともに、二酸化炭素はふたたび空へと放たれ、2021年には十五・三ギガトンという過去最高水準に達した。江蘇省の南通港では石炭が積み下ろされ、発電所とセメント工場の煙突が休むことなく白煙を上げた。
与那国島に届く微かな炭素の流れ。それは、地球規模の呼吸の変化を告げる手紙のようなものだ。島に立つ人々は知らず知らずのうちに、大陸の息吹と交差している。石炭とともに吹き寄せるこの風は、今も未来も、静かに島の空を染め続けるだろう。
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