Monday, April 28, 2025

偽りの爆音――2013年春、AP通信を襲ったサイバーの波紋

偽りの爆音――2013年春、AP通信を襲ったサイバーの波紋

2013年4月23日、シリア政府を支持するハッカー集団「シリア電子軍(Syrian Electronic Army, SEA)」が、米国の主要通信社であるAP通信のTwitterアカウントを乗っ取った。
この攻撃によって、「ホワイトハウスで爆発があり、バラク・オバマ大統領が負傷した」とする偽の速報が発信された。

発信元が信頼されるAP通信であったこと、さらに米国大統領の負傷という国家の根幹を揺るがす内容であったことから、金融市場は瞬く間にパニックに陥った。
特に、当時はニュースに反応して自動的に取引を行う高速取引アルゴリズム(HFT)が普及しており、「爆発」「負傷」といったキーワードを検知したプログラムが一斉に売り注文を発動。
この機械的な売却に加え、実際の投資家たちの不安心理も連鎖し、ダウ平均株価は一時143ポイント(約1%)急落、S&P 500指数では1,365億ドル(約13兆円)もの時価総額が一時的に失われる事態となった。

後にこの情報が誤報と判明し、株価は回復したものの、ソーシャルメディア上の虚偽情報がいかに金融市場へ即時的かつ甚大な影響を与えるかが、世界中に衝撃をもって認識された。
調査により、SEAはAP通信の記者に対してフィッシング攻撃を仕掛け、信頼できる送信元を装ったメールで認証情報を盗み出し、Twitterアカウントへ不正アクセスを果たしていたことが判明した。

シリア電子軍はこの他にもBBC、NPR、ガーディアン、ニューヨーク・タイムズ、CNN、ワシントン・ポストなどを標的にしており、プロパガンダや偽情報拡散を目的としたサイバー攻撃を繰り返していた。
2016年には、米司法省がSEAのメンバー3人を起訴、FBIの「サイバー最重要指名手配リスト」に加え、懸賞金も設定された。

この事件は、単なるハッキングにとどまらず、国家安全保障、情報信頼性、そして現代金融市場の脆弱性を暴き出す出来事となった。
シリア電子軍による一撃は、インターネット時代における「情報戦」のあり方を、改めて世界に突きつけたのである。

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