静けさに咲く黒髪――山口小夜子と光の肖像（1949年〜2007年）

静けさに咲く黒髪――山口小夜子と光の肖像（1949年〜2007年）

山口小夜子（やまぐち・さよこ）は、1949年、横浜に生まれた。東京・杉野学園ドレスメーカー学院で学び、1970年代初頭、資生堂の広告モデルに抜擢される。黒髪のボブと切れ長の瞳、無表情に近い佇まい――彼女は、西洋的な美とは異なる、静かで力強い東洋の美を体現した。

高度経済成長を駆け抜けた日本社会は、自己の文化的独自性を模索していた。山口小夜子は、その時代精神の象徴となった。写真家・横須賀功光は、彼女の沈黙の美を見抜き、静謐な余白の中に彼女の存在を封じた。ふたりのコラボレーションは、単なる広告を超え、時代の空気そのものを映し出した。

やがて小夜子は、パリ・コレクションに進出。「東洋から来た妖精」と讃えられ、世界の視線を集めた。しかし、商業主義に消費される自らの存在に違和感を覚え、舞台や映像、舞踏へと歩みを進める。彼女は「身体を通して世界と対話する」表現にたどり着いた。

2007年、58歳で急逝。だが、山口小夜子の黒髪は、今なお静けさの中に咲き続けている。彼女は、時代のざわめきの中で、光の肖像となったのである。