大陸から吹く炭素の風――与那国島と波照間島の証言(2020年代)
2020年代に入ってもなお、中国大陸から排出される二酸化炭素が、日本最西端に位置する与那国島や波照間島の大気に大きな影響を与え続けている。与那国島は中国大陸からわずか百十一キロメートルの距離にあり、特に冬季には、東アジアの季節風により大陸からの風が吹き込み、中国から放出された二酸化炭素が直接島に到達しやすい状況にある。このため、島の大気中の二酸化炭素濃度は中国の産業活動に大きく左右される。
二千二十年には、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、中国国内で広範なロックダウンが実施され、産業活動の停止によって二酸化炭素排出量は一時的に三十二パーセント減少した。しかし、その後の経済再開と共に排出量は急速に回復し、二千二十一年には中国国内の石炭火力発電所がフル稼働状態となった。結果、中国の石炭由来二酸化炭素排出量は十五・三ギガトンに達し、過去最大だった二千十四年の水準を上回った。とりわけ、江蘇省の南通港では石炭輸送と消費が拡大し、発電やセメント製造において急激な増産が見られた。
与那国島および波照間島では、大陸からの風によって運ばれる二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスの濃度が継続的に観測されており、これらのデータは中国の化石燃料起源の排出量を評価する重要な指標となっている。観測結果は、産業活動の増減や電力需要の変動が二酸化炭素排出に与える影響をリアルタイムで捉える上で不可欠であり、例えば経済急回復や異常気象時には、石炭消費の急増により二酸化炭素濃度が記録的に高まることが確認されている。
こうして与那国島は、東アジアの大気汚染と温室効果ガス動態を知るための最前線となりつつあるのである。
【関連情報源】
■ 与那国島・波照間島における観測データと二酸化炭素排出推定手法
国立環境研究所により、与那国島・波照間島での二酸化炭素およびメタン濃度観測を基に、中国の化石燃料起源二酸化炭素排出量をリアルタイム推定する手法が開発されている。
■ 二酸化炭素とメタンの濃度比を用いた排出推定の手法
波照間島と与那国島での観測データに基づき、化石燃料起源排出量を推定する方法が確立されている。
■ 中国における石炭火力発電と二酸化炭素排出の現状
中国では石炭火力発電所の建設が急速に進み、日本の二十倍にあたる設備容量を持つに至っている。さらに、今後数年で日本の六倍に相当する新たな石炭火力発電設備が建設される見込みである。
■ 中国のエネルギー需給と排出動向の詳細分析
石炭の生産と消費、そして再生可能エネルギー導入の動向についても詳述されており、今後の二酸化炭素排出量に大きな影響を与えると見られている。
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