暗流の絆――道仁会と前田諭孝の影（1971年〜2024年）

暗流の絆――道仁会と前田諭孝の影（1971年〜2024年）

道仁会前田一家初代の前田諭孝（まえだ・のりたか）については、現在に至るまで公的資料や報道記事においてほとんど情報がなく、その詳細な経歴や活動実態は明かされていない。前田一家は、福岡県久留米市に本拠を置く指定暴力団・道仁会の内部組織の一つと推測されるが、初代である前田諭孝自身に関して、抗争史や組織変動の中で個別に言及されることは稀であった。彼の存在は、道仁会の広がる暗流の一端として、静かに歴史に沈んでいる。

道仁会（どうじんかい）は、福岡県久留米市を拠点とする指定暴力団である。1971年、古賀磯次によって創設され、1992年には福岡県公安委員会により正式に指定暴力団に認定された。構成員はおよそ三百二十人を数え、福岡、佐賀、熊本、長崎の四県に勢力を広げている。

その歴代会長には、初代・古賀磯次、二代目・松尾誠次郎、三代目・大中義久（松尾義久）、四代目・小林哲治、そして2024年五月に五代目に就任した福田憲一が名を連ねる。福田憲一は、福田組という有力派閥を率い、資金力と組織統率力において群を抜く実力者と目されている。

道仁会の歴史は、幾度も血の抗争に彩られた。とりわけ、1986年から1987年にかけて繰り広げられた「山道抗争」では、山口組との激突の末、九名が命を落とした。また、2006年から2013年にかけては、内部抗争から分裂した九州誠道会との間で死闘を繰り広げ、手榴弾やマシンガンが用いられる中、四十七件の事件が起き、十四名が犠牲となった。

こうした暴力の激化に対して、地域社会もまた行動を起こした。久留米市では本部事務所の撤退を求める市民運動が高まり、道仁会はやむなく佐賀県みやき町へ拠点を移転。福岡県警もまた、筑後地区暴力団集中取締本部を設置し、道仁会への資金源断絶と実態解明を進めた。

近年では、宿敵であった浪川会との間で「和解」や「トップ同時引退」という劇的な展開があり、九州の暴力団地図は静かに塗り替えられつつある。五代目福田体制のもと、道仁会が果たして組織の再編を進めるのか、それとも新たな抗争の火種を孕むのか、警察と社会はいま、静かにその行方を見つめている。