偽りの爆音――シリア電子軍と春暁の闇（2013年4月）

偽りの爆音――シリア電子軍と春暁の闇（2013年4月）

2013年4月23日、春まだ浅いワシントンに、一つの偽りが走った。
シリア政府を支持するハッカー集団「シリア電子軍」は、米国AP通信社のTwitterアカウントを乗っ取り、「ホワイトハウスで爆発、オバマ大統領負傷」とする偽速報を発信したのである。

信頼厚き報道機関の発する速報に、金融市場は刹那に反応した。高速取引プログラムは「爆発」「負傷」の言葉を拾い、瞬時に株式を売り浴びせ、ダウ平均は143ポイント、S&P500は13兆円もの時価を失った。
パニックに駆られた市場は、まるで春嵐に吹きすさぶ花弁のように脆く揺れた。

この混乱の裏には、巧妙なフィッシング攻撃があった。
シリア電子軍は記者らに偽装メールを送り、認証情報を奪い取ったのである。彼らはAP通信のみならず、BBC、NPR、ガーディアン、ニューヨーク・タイムズなどをも標的にし、ネット空間をひそやかに揺さぶっていた。

誤報と判明した後、市場は平静を取り戻した。だが一度裂けた「信頼」という名の幕は、容易に縫い直されはしない。
この事件は、デジタル世界における「情報」と「恐怖」がいかに密やかに手を取り合うかを、世界に深く刻みつけたのであった。