地に牙を埋める――狼舎と沈黙の舞台(1970年代初頭)
1970年前後の高田馬場。戸塚四丁目の地中に、小さな劇場が静かに掘り起こされた。名は狼舎。それは劇団も持たぬ男たちが、金も情熱も語らず、「裏切れなかったから」という理由だけで地面を掘り進めて造った舞台だった。
時はアングラ演劇が隆盛を極め、赤テントや路地裏が表現の主戦場となった時代。寺山修司、唐十郎といった異端たちが「制度」から逃げ、野に出て言葉を叫んだ。その延長に、狼舎はあった。ただしそれは、地上で咆哮する獣ではなく、地中に潜んで牙を研ぐ狼の居場所だった。
夜の終演後、誰もいない地下劇場に立つとき、創り手は言う。「昔の狼の胸騒ぎが聞こえる」と。照明のない舞台に響くその音は、制度の外にある声、掘り下げられた魂の声だった。
狼舎とは、表の世界に居場所を持たぬ者たちの、誓いと沈黙の集積である。光ではなく闇の中でこそ咲く演劇。文明の下に埋められた反表層の叫び。それが、この地下の舞台に今も息づいている。
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