Thursday, May 29, 2025

岡林信康「願いの逆光」――『私たちの望むものは』と1970年の魂

岡林信康「願いの逆光」――『私たちの望むものは』と1970年の魂

1970年、日本のフォーク界に激震を走らせた岡林信康の「私たちの望むものは」は、単なる歌ではなかった。それは、制度に押し潰される個人の魂が、言葉となって噴き出した祈りだった。

岡林はこの年、過労と重圧から一時音楽活動を離れ、自己と社会を見つめ直す旅に出た。そこで出会ったのが、ボブ・ディラン、ウィルヘルム・ライヒ、そしてフランス五月革命の言葉たち。彼の詩は、そうした時代の裂け目を吸い込み、再び発せられた。

「社会のための私ではなく、私たちのための社会なのだ」と歌い出すこの楽曲は、否定と希求の構造をもって進む。労働は義務ではなく喜びであり、芸術は生活の手段ではなく、生きる目的であると断言する。反復される「私たちの望むものは」は、痛切な訴えでありながら、未来への約束でもある。

やがてその構文は反転し、「私たちのための教育」「労働」「思想」と肯定の言葉が連なっていく。この逆光の中で浮かび上がるのは、絶望ではなく、なお願う心の輪郭だ。

半世紀を越えてなお、この歌は、私たちの奥深くに沈む「何か」を静かに揺り起こす。

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