銃声と影――広島代理戦争の記憶 1963年
昭和三十八年、広島の街は沈黙と緊張に包まれていた。表向きは経済成長に彩られた地方都市だったが、その地下では血と銃声による支配の争奪が始まっていた。地元の山村組と打越会、そこへ進出する巨大な外来勢力・山口組――その三者が織りなす抗争は、広島を戦場に変えてゆく。山村辰雄率いる山村組は、戦後から地元に根を張る老舗組織で、建設や歓楽街に影響力を持っていた。対する打越会は独自の台頭を図り、山口組との接近が噂され、やがて抗争の中核に躍り出る。
流川町では白昼の銃撃、広島駅では深夜の市街戦。死者は十人を超え、負傷者は数十名。通行人も流れ弾に倒れ、街は恐怖の中に沈んだ。押収されたのはリボルバー、外国製拳銃、散弾銃、模造武器、そして日本刀に至るまで。戦後の密輸ルートや不法改造が裏で息づき、暴力団の武装化はもはや私設軍隊の域にあった。警察は頂上作戦で事態の収拾を図るが、抗争の根は深く、最終的には山口組の影が広島を覆うこととなる。
この戦争は、秩序の空白を埋めようとする「裏の国家」の壮絶な足音だった。今も広島の裏通りには、あの年の血と煙の記憶が静かに染みついている。
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