Thursday, May 29, 2025

光を夢見た葉脈たち――合成生物学の黎明と失敗の記憶(2014年)

光を夢見た葉脈たち――合成生物学の黎明と失敗の記憶(2014年)

「Glowing Plant」は2014年にY Combinatorが支援した初期のバイオテクノロジー系スタートアップのひとつである。合成生物学の手法を用いて暗闇で自ら光を発する植物の開発を目指していたこのプロジェクトは2013年にKickstarterで約48万ドルを調達し大きな注目を集めた。当初の構想では観賞用にとどまらず虫除けや空気清浄といった機能を持つ植物を一般家庭に届けることが念頭に置かれていた。

しかし実際に遺伝子組み換えで明瞭に光を放つ植物を生み出すことは技術的に極めて困難だった。開発チームは蛍光遺伝子を組み込む実験を繰り返したが光は肉眼で十分に確認できるほどの明るさには至らず商業的な成功には結びつかなかった。そのためプロジェクトは途中で路線を変更し最終的には香りを放つコケの開発に力を注ぐこととなった。しかしこの新たな挑戦も品質管理の問題によって行き詰まりプロジェクトは静かに幕を下ろすこととなった。

だが「Glowing Plant」の掲げたビジョンは完全に潰えたわけではない。その後継として誕生したスタートアップ「Light Bio」はキノコに由来する蛍光遺伝子を用いペチュニアなどの植物に持続的な発光能力を持たせる技術を開発。ついに2024年米国で家庭向けに販売を開始した。発光する植物が現実のものとして人々の生活に入り込む時代が訪れつつある。

「Glowing Plant」の試みは技術の限界、倫理、規制といった数々の障壁に挑みつつ合成生物学という新しい領域の可能性を人々に強く印象づけた。失敗の記憶がやがて後継者によって実を結びかつての夢が時間と共に静かに花開く。その軌跡はまるで光を探して伸びる植物の茎のように未来へと続いている。

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