Friday, May 30, 2025

緑化と断熱は都市を冷やせるか?――2004年のヒートアイランド対策をめぐる三者の視点

緑化と断熱は都市を冷やせるか?――2004年のヒートアイランド対策をめぐる三者の視点
2004年の都市環境をめぐる座談会「ヒートアイランドの中の住宅建築論争」は、急速に深刻化する都市の温暖化現象、すなわちヒートアイランド現象への対応をめぐって、建築家、環境学者、行政担当者という三者がそれぞれの立場から議論を交わしたものである。

当時、東京をはじめとする大都市では、日中の気温上昇だけでなく、夜間の気温低下が見込めない「都市の高温化」が顕在化しており、これに伴ってエアコン使用が常態化し、家庭の電力消費が跳ね上がっていた。これにより、電力供給体制や都市生活の持続可能性が問われるようになり、環境省や各自治体も緩和策の必要性を声高に唱えていた。

この座談会でまず発言したのは建築家であった。彼は、「個人住宅レベルの改善が市民にとって最も近い環境対策である」と主張し、断熱材の使用、風通しの良い間取り、屋上緑化など、自然素材を活かした建築こそが、生活の快適性と環境配慮の両立を実現すると語った。それに対して環境学者は、「個々の住宅改善だけでは、都市全体の熱の流れは変えられない」として、都市構造全体に目を向けたマスタープランの策定こそが必要だと強調した。彼は、住宅密集地が整備されずに放置されてきたことをヒートアイランドの一因とみなし、「都市計画の不在」が問題の根本であると論じた。

こうした個人対都市、ミクロ対マクロの議論のなかで、行政担当者の発言は調整役の色彩を帯びていた。彼は、「条例や規制での義務化には、市民の納得が欠かせない」と述べ、例えば屋上緑化についても、助成制度によるインセンティブは用意されているが、それを義務とするには社会的合意が必要だと慎重な姿勢を示した。実際、自治体によっては緑化助成を行っていたものの、利用率が低調であることからも、市民理解の難しさがうかがえた。

三者の発言は時に交差し、時に平行線をたどった。建築家は、「快適性を犠牲にしては、持続可能な改善は根付かない」と語り、環境学者は、「エアコンや人工的冷却への依存は、結果として温暖化を加速させる」と反論。行政は、「市民との距離を近づけるためにこそ、まずは仕組みから始めるべきだ」と取りなした。この会話は、単なる技術論ではなく、「誰が都市の未来を構想するのか」という問いを内包していた。

この論争は、2000年代初頭の日本社会が直面していた「都市の持続性」と「市民生活の快適性」という二律背反のジレンマを鮮やかに照らし出すものであった。ヒートアイランドという現象は、単なる気象現象ではなく、都市と人間との関係性を浮かび上がらせる鏡でもあり、この座談会はその本質を見つめ直す一つの契機となっていた。

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