雷鳥が減ったのはなぜか――保護の名のもとに揺れる自然との距離感 - 2025年5月

雷鳥が減ったのはなぜか――保護の名のもとに揺れる自然との距離感 - 2025年5月
ニホンライチョウはかつて本州中部の高山帯に広く分布していたが、近年その数は激減している。最大の要因は気候変動である。氷河期の生き残りであるこの鳥は、冷涼な環境でしか生きられない。だが温暖化によりその環境は後退し、さらに本来いなかったキツネやカラスといった天敵が標高を上げて侵入している。これにより卵やヒナの生存率が著しく低下した。

さらに観光開発の影響も深刻である。登山道の整備やスキー場の開発で多くの人が山に入るようになり、生息地が撹乱されている。ライチョウは人の接近に敏感で、営巣や採餌行動に支障をきたす。高山植物の減少も食物供給に悪影響を及ぼしている。

こうした状況の中で、環境省は人工授精による個体数の回復を試みているが、2025年5月には採精作業中に1羽が死亡する事故が発生した。人工的な繁殖のあり方やその倫理性が今問われている。人間の手で「守る」ことは本当に自然との共生なのだろうか。雷鳥の減少は、自然と人間の距離を見直す契機である。